時は過ぎて十月。秋も深まってきた頃、私は伊達さんとこじゅさんと、私の勤務先でお話をしていた。呼んだのはこじゅさんだけだったはずなのだけど。

「俺に声をかけねえなんて、水くさいじゃねーか」
「そこまで親密な仲に伊達さんとなった記憶は無いですが」

こじゅさんとはあれ以来も、ちょくちょく畑の手伝いをさせてもらってるので多少仲は深まったと思うが。
伊達さんは相変わらずな感じである。私とこじゅさんが畑いじりしてても、椅子に座って退屈そうに眺めてるだけだし。

「で、何だ?相談ってのは」
「おい小十郎、今話してんのは俺と春佳だぞ」
「いや私とこじゅさんですよ」

店長がサービスだって出してくれたパフェをつつきつつ、「佐助のことなんですけど」と話を始める。
瞬間、二人して険しい表情になったものだから笑えた。警戒されてんなーあの人。

「猿飛がどうかしたのか」
「いや、何かされたとかじゃないんですよ?だから二人ともその顔やめてください、こわい」

特にこじゅさんがめっちゃ怖い。

私の言葉を受けて、二人はゴホンッとほぼ同時に咳払いをする。そこんとこはさすが主従だわと胸の内で考えて、話を続けた。

「ここんとこ佐助の世話になりっぱなしなんで、なんかお礼したいなーと思うんですよね。何か良い案ありません?」
「「…………」」

分かり易く沈黙した二人に、ですよねえーと心の中で失笑。
伊達さんに至っては沈黙、のちにぷるぷると震え始め、メニューで私の頭を思いっきりはたいてきた。痛い。うちのメニュー表は人の頭を叩くための道具じゃない。

「んっでンなモン俺らに訊いてくんだ!!」
「伊達さんじゃなくてこじゅさんに訊いたんですよ」
「俺に訊くのもおかしいだろ」

冷静なこじゅさんのツッコミも、まあ、理解はできるんだけど。

だって考えてみれば、佐助の存在をそれなりにちゃんと知っている私の知り合いなんて、数えるほどしかいないのだ。
その中で、幸村さんは連絡先を知らない。姉さんや母さんにはあまり無駄な連絡を取りたくない。となると消去法でこじゅさんや伊達さんしか残らないのである。
蒼紅主従として、所謂前世?でも多少なりとも絡みはあったのだし、現代でもそれなりに関係があるみたいだし。
少なくとも私よりは、佐助のことを知ってるだろう。そう考えた上での行動だったのだけど。

「やっぱり迷惑、でしたか……?……ごめんなさい」
「春佳……」
「おい小十郎、騙されんな。コイツ今思いっきり猫被ってるぞ」
「そんなことないですよー」

こじゅさんは二度目の咳払いをして、「わかっております」と呟く。何だバレてたか。

「とりあえず何でもいいんで、なんか佐助が好きそうなものとか、浮かぶのあったら教えてください」
「女」
「金」
「あとアイツ酒も好きだったな」
「佐助のイメージ悪すぎ」

でもお酒はアリだな、と一応スマホにメモっておく。
私の行動に二人はなんとも言えない溜息をついて、伊達さんが頬杖をついた。

「お前、アイツといてなんも問題ねえのか」
「ありますよ?」

即答すると、二人が僅かに瞠目する。

佐助といることで生じる問題なんて、いくらでも浮かんでくる。
下着を勝手に捨てられたこと、しかも三つも。部屋から異常なまでに青色を排除してくること。あの小瓶やカード、気に入ってたのに。
それに私の部屋で眠りたがるのも頂けない。人の気配があると満足に睡眠がとれないし。
あとツイッター!あれ以来ロクに呟けないんだからフラストレーション溜まって仕方ない。別のアカウント作ってもすぐ見つけてくるし。
だいたい暇を見つけては抱き付いてきたり、手や足を舐めてきたり、セクハラ紛い……っていうかセクハラだなアレ、セクハラしてくんのもうざったい。いい加減にしてほしい。
どこ行くの何すんの誰と会うのって彼女みたいに詰問してくるのも心底面倒臭い。

「……でもまあ、世話になってんのは事実なんで」
「春佳……、本当にその内食われても文句言えねーぞ」
「それこの前も言われましたねえ」

グラスの底にたまったソースやクリームと、玄米フレークをぐしゃりと混ぜながら笑う。
対して伊達さんもこじゅさんも真剣そのものな表情だったのだけど、特に何も言えることはなかった。

前も言ったけど、私なりの線引きはちゃんとしてるんだ。
そして佐助は、余程のことが無い限りそれを越えてくることはしない。
言っちゃえばただ油断してるってだけなのかもしれないけれど、食われるんならもう食われてるだろう。あれだけ、色々あったのだから。

「まあそんなことはどうでもよくて」
「どうでもよくねえだろう」
「っ、こじゅさん……?」

びしっ、とデコピンをお見舞いされる。
こじゅさんの突然の行動に驚いたのは私だけじゃなくて、伊達さんも目を丸くしてこじゅさんを見つめていた。
怖い顔をして、こじゅさんは私を見つめる。多分、睨んでるわけじゃ、ないんだと思う。

「大切な事だ。何か起きてからじゃ遅え」
「……すみません」

……ああ、向けられる心配がこそばゆい。相手が片倉小十郎という人だからこそ、余計に。
何か裏が……例えば下心があって、心配をしているんじゃないと解ってしまうから。だから余計に、こそばゆかった。
申し訳ないような、嬉しいような、変な気持ち。

「お前は女で、猿飛は男だ。いざ、何かが起きた時に春佳がいくら抵抗しようとしたところで、お前が猿飛に敵う事はない。それを理解しているのか?」
「はい……」
「ならばもっと注意をしろ。周りを頼れ。猿飛とばかり過ごしていれば、その内……絆されるぞ」

で、ですよねー……。
黙り込むしかないのだけれど、一つだけ言いたいことがあった。それを言うには随分と勇気が必要だったが。

「……でも、頼る人とか、あんまり」
「いるじゃねーか」

私の不安をあっさりぶった切ったのは、伊達さんだった。
思わずぽかんとして、俯けていた顔を伊達さんに向ける。なんと言えばいいのか、ドヤ顔とでも言えばいいのか……そんな笑みを、浮かべていた。

「この俺、竜王伊達政宗と、その腹心片倉小十郎がな!」
「……伊達さんって未だに竜王名乗ってたんですね……?」
「ツッコむとこそこじゃねーよ」

いや、しかし。その言葉はなかなかに……ううん、もの凄く嬉しいものである。
こうやって向けられる善意を素直に受け止められるようになったのは、もしかしたら佐助のおかげなのかもしれない。
そう思うと、やっぱり何かお礼をしなきゃなあ、と思うわけで。
まあでも今はとりあえず、この二人にお礼を言わなきゃ、か。

「わかりました。佐助との事はもう少し真面目に考えます。何かあったら二人に相談します。……ありがとうございます、こじゅさん、政宗さん」
「!春佳……。"さん"、はいらねえぜ」
「善処します」
「だからお前なあ」

こんな関係が得られたのなら、私の人生も悪くない。


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