飲み会は概ね楽しく、私が知らなかった事なんかも知られたので良い感じに終われた。家康さんや慶次さんには幸村の義妹ということに少し驚かれもしたが。

そして解散となり、帰路につこうとした私を引き留めたのは伊達さんである。
店舗兼自宅に残っている元親さんと違い、家康さんと慶次さんは電車で帰っていった。また飲もうと笑ってくれたのは覚えている。
若干酔いはしているものの、一人で歩けない程じゃない。送ると言ってくれた伊達さんに「大丈夫ですよ」と返せば、なぜか軽く頭をはたかれた。解せないと思う。

「女を一人で帰せるわけねえだろ。すぐに小十郎が来る、乗ってけ」
「申し訳ないですって」
「じゃあこれで貸し一つだ。次、俺とdinnerに行くってんならチャラだ。なんならlunchでもいいぜ」
「なぜそんなに私とご飯に行きたがるのか……」

じんわりと脳内を犯す睡魔に頭を振りながら、溜息混じりに吐き出す。
伊達さんはにまりと、やっぱりどこか悪巧みをしているような笑みで呟いた。

「春佳は猿に気に入られているみてえだからなァ」
「……性格悪いですね」

つまり当てつけである。そんなんに使われるなんて面倒なことこの上ない。
私のぼやきを受けて伊達さんはわざとらしく肩をすくめた。その仕草がどことなく佐助さんに似ているのを見て、彼らの仲が悪いのは同族嫌悪ではないのかと思う。考えてみれば、なんとなく似ている節はちらほらと見える。

「春佳自身が気になんのも事実だぜ?」
「それはどうも」

飲み会の最中、勝手に登録されてしまった伊達さんのアドレスをなんとなく眺める。何故か名前が『Darling』にハートマーク付きで登録されていたので、真顔で『伊達さん』に書き換えた。
そういえば、彼らのうちの誰かの連絡先が、私のスマホに入ったのは初めてだ。佐助さんとはなんだかんだで連絡先を交換しなかったし、幸村さんとは向こうが交換しようとする気配を感じていたのでのらりくらりと逃げていた。

……まあ、消す必要もない。

「お、来たみたいだな」

店先で話す私と伊達さんの前に、黒塗りの高級そうな車が停まる。開いた窓の向こうで片倉さんが頭を軽く下げた。心臓が口から飛び出るかと思うくらいびびった。
ほ、ほぼ本職じゃねーか……。なんて感想は、もちろん口が裂けても言えない。

車を降りた片倉さんが私たちの前に立ち、後部座席のドアを開ける。伊達さんを見上げれば先に乗るよう促されたので、恐る恐る、車内に入った。
ふかふかのシートに、まるで新車のようなにおい。お、落ち着かない……佐助が普通の車に乗ってる人でよかった……。
伊達さんも私の隣に座り、片倉さんがドアをそっと閉める。そして運転席に再びついた片倉さんと、伊達さんとが数回言葉を交わすのを頭の端で聞きながら、酔いが次第にさめていくのを感じた。


 *


何からそういう話題になったのかはまったく覚えていないけれど、車内で最も盛り上がったのは片倉さんとの畑談義だった。
随分昔、祖父母の家で畑仕事を手伝ったのは、私の幼少期において数少ない幸せな思い出だった。それもあって、私は子供の時から野菜が大好きである。お洒落で現代的な料理も好きだけど、田舎のおばあちゃんが作ってくれる家庭料理、みたいな料理の方が好きだ。
片倉さんの話は、そんな私の好奇心をとても刺激してくれるものだった。片倉さんも、私がこんなにも喜々として話を聞いてくるとは思わなかったのか、やや驚きが混じりつつも楽しそうに話してくれている。
伊達さんは、ちょっとだけつまんなそうに唇を尖らせながら、けれど優しげな呆れで肩をすくめていた。

「なんなら今度、俺の畑を見に来るか」
「本当ですか!?是非、行きたいです!お手伝いします!」

そんな約束をしたところで、私の住むマンションに到着する。話が終わってしまうのは残念だけれど、この調子ならまたいつでもお話できるだろう。
ドアを開けてくれた片倉さんにお礼を言いながら、車を降りる。振り返って、伊達さんにも頭を下げた。

「今日はありがとうございました。機会があれば、また連絡します」
「機会があればってのが不安だが……Ok,待ってるぜ」
「片倉さんもありがとうございました。片倉さんの畑、見に行っても大丈夫な日があったら教えてください。バイト休んででも行きます!」
「ああ、わかった。そん時は収穫手伝わせるからな、しっかり身体休めてこいよ」
「はい!」
「春佳、俺の時と対応違いすぎじゃねえか」

えへ、とわざとらしく笑ってみせて、車から離れる。
片倉さんがドアを閉めて、運転席に乗った。後部座席の窓がゆっくりと開く。

「……春佳、これは冗談でも何でもねえ、本気の忠告だ。……猿には気をつけろよ」

その言葉の意味をはっきりとは理解しないまま、無言で頷く。その頷きに疑問符が滲んでいたのは伊達さんも気付いていただろうけれど、呆れたように鼻を鳴らすだけで。
「See you,春佳。……連絡しろよ」と念を押されたのを最後に、車はマンションの前から去っていった。


猿に気をつけろ、と言う。彼の言う猿とは、佐助の事だろう。
猿飛佐助に気をつけろ。それはどうして、と、答えてくれる人はいないので自問する。

「……、」

あの佐助が普通じゃないことくらいは、誰だって見ればわかる。


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