神様は私のことが嫌いなんだろうか。
窓の向こうで尋常じゃなく降り荒ぶ雨粒に、顔を顰める。さすがにこんな大雨の中、車で地元まで帰ってくれとは頼めない。暴れる木々を見る限り、風も相当強そうだし。

キッチンで朝食兼昼食の用意をしている佐助さんが、「明日には止むみたいだよ」と外を呆然と眺める私の背に言葉を投げかけてきた。頷くだけに留めておく。

昨晩は結局、碌すっぽ睡眠をとることが出来なかった。数十分寝ては目覚め、一時間眠れたかと思えば目覚め。もう幾つ夢を見たのかすらも定かでは無い。
まともに眠れたのは朝方になってからだろう。おかげで今も頭の中心はふわふわとしている。ねむい。

「顔も洗ったのに、まだ眠そうだねえ」
「起床自体は衝撃的だったはずなんですけどね」

昨日の残りの筑前煮と、味噌汁にご飯をお盆に載せた佐助さんに、皮肉混じりに返してやる。
寝起きで反応する気力も無かったが、寝込みを襲われかけてたのは一応覚えている。それが本気にしろ冗談にしろ、衝撃的だったのは事実だ。あれでも一応、随分と驚いた。

お盆を受け取り、テーブルに並べていく。その間に佐助さんはお茶と箸をとりにまたキッチンへと戻っていて、何で私はこの状況に順応してんだろうかとこっそり溜息をついた。
佐助さんがいると楽だと思う、それは本心だ。だけどいくらなんでも慣れるのが早すぎる。
回数で言えばこの人に会うのはまだ三、四回目ってとこなのに。ほぼ他人だぞこれ。他人だけども。

「はい、お待たせ」
「……ありがとうございます」

しかしお茶を渡して、私の斜め前に腰を下ろす佐助さんも随分と慣れているように見える。落ち着いている、というか。
よく他人と過ごしててこんな普通にしていられるなとも思ったが、完全にブーメランだったので口にすることはしなかった。何より、よくよく考えてみれば私は佐助の"普通"なんて知らないのだ。向こうも同じく。

「いただきます」
「、いただきます」

手を合わせて、思考はひとまず放っておき朝食兼昼食にありつく。
やっぱり筑前煮美味しい。一晩経って昨日よりも味が染みているのがまた……素晴らしい……。

「春佳ちゃんってほんっと美味しそうに食べるよねえ。作り甲斐があるわ」
「……そんな顔してました?」
「うん。今の一瞬で消えたけど」

ほんの少し気恥ずかしくなる。
昔、大好きなジェラート屋さんのジェラート食べ歩いてたら、知らないお姉さん達に「それどこのジェラート?とっても美味しそうに食べてたから気になっちゃって!」って話しかけられたこと、あったなあ……。そんなに顔に出てんだろうか。

悶々と考える私を、佐助さんは妙に笑顔で眺めている。この視線にもすっかり慣れたな、とそれを無視して、味噌汁をすすった。
ああ、これも美味しい。


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