佐助さんが作った筑前煮はもう絵に描いたようなお袋の味で、それはそれは美味しかった。うっかり嫁いで貰おうかと思った。
というか煮物に白飯、味噌汁、焼き魚なんていう見事な日本の食事風景を自分の部屋で見たのが久しぶりすぎてだな。大学出てからまともな料理なんてロクにしてないし。体重も三キロ減ったし。

今は佐助さんがお風呂の用意をしてて、私が食べ終えた食器を洗っている。

人に慣れるのにやたらと時間がかかる私にしては、佐助さんと居ることにさしたる問題を抱いてはいないな、と自己分析。
やっぱり、ゲームでとは言え多少の人となりを知っている分、楽なんだろうか。まあ言っちゃえば出会った瞬間から好感度はそれなりに高いわけなのだし、向こうがフレンドリーなら拒む理由も無いわけで。
……佐助、恋愛に関しては人生イージーモードっぽそうだなあ、と自分を振り返りつつなんとなく考えた。


食器を洗い終え、タオルで手を拭く。
未だに浴室から戻ってこない佐助と、がこがこしゃこしゃこ言ってる妙な音に「あの人風呂掃除始めやがった……」と呆然と呟いて、もう気にしないでおこうと決める。あの人はきっとお母さんなんだ。そういう存在なんだ。気にするだけ無駄だと思おう。

部屋の定位置に座り、テレビをつけた。


 *


「お風呂たまったよー」
「お疲れ様です」

クッキーをかじりながらテレビへ向けていた視線を、ようやく戻ってきた佐助さんに向ける。袖や裾が所々濡れていて、いつの間に出していたのかそれをタオルで拭いていた。
私の斜め前の位置に座り、ふうと一息つく。そりゃあ車で地元からこっちまで来て、その後休む間もなく部屋の片付けを始めたのだから疲れもするだろう。私が頼んだわけではないけれど、なんとなく申し訳なくなる。

言っちゃえばこの人は赤の他人だ。
母さんに恩がある。わかる。姉さんと幸村さんが結婚すれば家族となる。まあわかる。でもそれらの事象に、私はまったく関係ない。せいぜい関係あるとすれば義兄となる幸村さんくらいで、やっぱり佐助さんと私には何の関係性も無い。
よくもまあ他人の為に此処までできるもんだ。単純に尊敬する。若干値、呆れも入っている。

「春佳ちゃん、先にお風呂入るでしょ?」
「後でもいいですよ。佐助さん疲れてるだろうし」
「あ、それとも一緒に入る?」
「ははっ」

これはゲームをしていた時からの印象なのだけど、佐助の馴れ馴れしさは線引きをしていることの裏返しだと思う。
絶対に自分の中へは踏み込ませないが故の、軽さ。
私にも同じ節はあるので、なんとなくわかる。

「拒否はしないんだ」
「別に佐助さんに全裸見られたとこで何とも思いませんし」

クッキーをかじる。

「俺様もそうとは限らないでしょ?」
「はは、ナイナイ」

空になった袋を、ゴミ箱に放った。

「だって佐助さん、体裁を大事にするタイプでしょ」

にこりと笑って、結局先にお風呂へ行くことにした。バスタオルを手に取り、「お先でーす」と浴室へ向かう。
きょとん顔の佐助、というのはなかなかにレアだろう。良いモノを見れた。


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