てきぱきと部屋を片付けていく佐助さんに指示されるまま、私は頭を抱えたい気持ちでいっぱいになりながら食器を洗っていく。
視界の端にとうとう洗濯物に手ぇつけ始めた佐助さんの姿が映ったけれど、どうこう言う元気も無かった。何で顔見知り程度の人にパンツ畳まれてんだろう、私。

「春佳ちゃん、意外と下着の趣味エロいんだね」
「訴えたら勝てる気がする……」

レースがついてお尻の辺りが透けているパンツをしげしげと眺める佐助さんに、なんとも言えない気持ちになる。セクハラ親父もええとこだと思うんだが如何だろうか。
私のぼやきは聞こえなかったのか聞こえない振りをしたのか、佐助さんはパンツを眺め続ける。見過ぎだろ。

「でも俺様、この色はどうかと思うな」
「可愛いじゃないですか、青。涼しげで」
「春佳ちゃんに青は似合わないよ」

喰い気味に答えられて、思わず食器を洗う手を止めた。水の流れる音だけが部屋に響く。

「……似合わない自覚あるから、下着で我慢してんですけど」

今にもパンツを破るんじゃないかっていう佐助さんの雰囲気に、恐る恐る告げる。私の言葉なんて聞こえてないのか、佐助はパンツを見つめ続けた。
何だろうこの、シリアスなんだかギャグなんだか分からない雰囲気。笑い飛ばすのは許されるだろうか。微妙なとこだ。

暫く無言が続いて、不意に佐助さんが軽く笑い声を漏らした。
さっきまで見続けていたパンツを畳み、既に畳まれている下着類の上に重ねる。

「ま、こんくらいならいっか」

その言葉の意味を察することは出来なくて。作業に戻った佐助さんに続くように、私も食器洗いを再開した。

……なーんかこの人、何考えてんだかわかんないな。


 *


おおまかなな片付けが終わり、二人で佐助さんが淹れたコーヒーを飲む。
この人いつ帰るんだろう。多分、ホテルくらいはとってると思うんだけど。
さすがに家に泊まることは無いっしょ〜と高をくくって、時計をちら見する。もうすぐ六時だ。買い物に行って晩ご飯を作らなきゃいけない。

「晩ご飯、春佳ちゃん何食べたい?」
「え?」
「俺様が作ってあげる」

にっこり、そう告げられて、思わず心の中の私がガタッと立ち上がった。
佐助の手料理。美味しくないわけがない。和食、断然和食。
……い、いやいやちょっと待て落ち着け私。何でこいつ家でご飯作る気満々なの?帰れよって話ですよ?

「あの、佐助さん。今日……ってか、どっか泊まる場所は」
「え、春佳ちゃん泊めてくんないの?」
「うわあまじかこの人」

あっちゃー口に出しちゃったーてへぺろ。真顔。

これはどうにかこうにかして帰ってもらわなきゃいけない。さすがに、何か起こるだろうとは思わないが、佐助と同じ屋根の下で眠るのは心臓に悪い。眠れる気がしない。
今からでも泊まれるホテルなんていくらでもあるだろう。
よーし、と意気込んで口を開こうとする。それより先に、佐助さんが口を開いた。

「そうだ、春佳ちゃん筑前煮好きなんだって?渋いねえ。今日はそれ作ろうか」
「来客用布団出してきまーす」

私は食べ物に釣られる女だった。


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