コンビニに入ろうとした私を止めたのは、「みこと様!」という聞き慣れた声だった。
そ、外で様付けはやめて欲しいなあ……と苦い顔になってしまうけれど、頑張って笑顔を作り出し、振り向く。やっぱり石田君がいた。
いつもは最低限の荷物しか持っていないのに、今日は手提げ袋がひとつ増えている。何か課題でもあったっけ?と首を傾げたところで、石田君が私に追いついた。

「既に昼食を、買ってしまわれましたか……?」
「?まだだよ」
「っで、では、その……っ、あの、」

珍しく歯切れの悪い石田君だなあと、言い淀む彼を見つめる。
ちょうど出入り口の前で立ち止まっていたので、少し位置をずらしながら石田君の言葉を待った。まるで告白待ちをしているようだとうっすら考えてしまうのは、石田君がとても顔を赤くしているからだろうか。

「出過ぎた真似だと、理解はしています……が、みこと様があまりにも淋しげな瞳をされていたので、その」
「……?」
「ッみこと様、どうか私に、貴女様へこの弁当をお渡しする、許可を!」
「……うん?」

とても面白い言い回しをされたなと思いつつ、差し出された手提げ袋を受け取る。私が受け取ったのを見た石田君の表情といったら、とても輝かしいものだったのだけれど、まあそれは置いておくとして。

「弁当……って、石田君が作ってくれたの?」
「は、はい……出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありません」
「いや謝ることではないのだけど……ええと」

ちらと袋の中を見下げる。そこには綺麗な花柄の布に包まれたお弁当と、漆塗りの箸箱が見えた。こ、高級そうだ……と石田君のお家にちょっとびっくりしてしまう。
そんな私を石田君は不安そうに見つめていて、はっと気が付き笑みを浮かべた。

「ありがとう、石田君。嬉しい。気を遣わせちゃってごめんね」
「いえ、そんな……!私が勝手にしたことです、みこと様が謝るようなことではありません!」

じゃあ今日買うのは飲み物だけでいいな、と石田君と共にコンビニへと入る。
パックジュースの棚を見ていたところでふと、普通お弁当を差し入れる?のは女の子側がやることではないだろうかと考えた。初めて会った時から、石田君はとても献身的でいてくれるから違和感を持たなかったけれど。
ううん、これは女子としての立場が危ういかもしれない。
私にお弁当を持ってきてくれたにも関わらず、石田君はいつも通り栄養ドリンクだけを購入している。それをぼんやりと眺め、よし、と心の中で呟いた。

「今日のお昼が楽しみだなあ」

結局いつも通りイチゴオレを購入し、石田君と並んで学校へと向かう。嬉しそうにはにかむ石田君に、「明日もお願いしていい?」と顔を覗き込んでみた。
石田君はやっぱり顔を真っ赤にして、首がちぎれちゃうんじゃないかってくらい大きく頷いてくれる。

「じゃあ、私も明日は早起きしなきゃ」
「……?」

不思議そうに私の名前を呼ぶ石田君は、なんだかかわいい。


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