石田君が転入してきて一週間。あまり人に馴染まない性質らしい石田君と、空き教室で一緒にお昼ご飯を食べるのがすっかり恒例となりつつあった。
クラスメイトに付き合っていると思われてるのはなんとなくわかっていたけれど、現状を見る限り訂正しても無駄だろうと思ったので放置している。もしも問題があるのなら石田君が訂正するだろうし。私は……こう、そういった事はあまり得意では無いのだ。

「……石田君、今日もそれだけ?」

がさがさとコンビニの袋をゆらしつつそぼろ弁当を取り出す私に対し、石田君は栄養ドリンク一本のみだ。せめてゼリー飲料やヨーグルトだけ、なら私にも経験はあるので良いのだけど、飲み物だけとなるとさすがに気になる。
石田君は私の言葉にぱっと顔をあげると、なんとも言えない表情で栄養ドリンクと私のそぼろ弁当とを見比べ、肩をすくめた。

「はい、あまり食べる事が好きではなくて……」
「ふうん……でも、お腹すかない?」
「必要な栄養は摂っていますので」

とは言っているけれど、石田君は高校生男子にしては細いと思う。ウエストなんて、私よりも細いんじゃないだろうかとすら……いや、これはあまり考えないでいよう。
なよっとした細さでは無いのだけど、どうにも心配になる。ただでさえ顔色がいつも良くないのに、こんな食生活じゃどんどん悪化するばかりだ。
コンビニご飯ばかり食べている私が言えたことではないかもしれないが。

「……まあ、お弁当用意するのも、大変だしね」

なんと返せば良いかわからず、結局漏れたのはほとんど自分の不満だった。
栄養ドリンクの蓋を開けようとした手を止め、石田君が私を見つめているのがわかる。苦笑し、顔の前で軽く手を振って、私はそぼろ弁当に箸をつけた。

「……以前から思っていたのですが、」
「うん?」

外した蓋を栄養ドリンクの隣に置き、石田君は視線を僅かに巡らす。

「教室にいる者達が持っていた弁当……以前の高校でも見かけたのですが、あれを昼食時に食べているのが、"普通"なのでしょうか」

……返答につまり、意識せず表情が強ばった。
そんな私の変化を見逃さず、石田君は慌てたように頭を下げる。私が現状、何を口にしているかを思い出したようだった。「もっ、申し訳ありません!」の言葉は空気を震わせるくらい大きくて、つい、笑ってしまう。

「別に謝ることじゃないよ。……でも、うん、そっか。どうなんだろうね」

普通の定義は、主観的にしか決められないものだと思う。
私にとって学校での昼食がコンビニ弁当なのは普通だし、きっと石田君にとっては栄養ドリンクで済ませるのが普通なんだろう。お母さんが作ってくれたお弁当を食べるのも、その子たちにとっては普通だ。

「普通かどうかはわからないけど、ちょっと憧れるよね」
「みこと様……」

うちはお母さんの仕事が不規則だから、朝にお弁当の用意をする時間なんて無い。それをよおく理解しているし、私もそこまで手作りのお弁当、ってものに執着していたわけじゃないから、コンビニ弁当で満足していた。
休みの日には晩ご飯を作ってくれるし、お母さんに文句があるわけじゃない。手作りのお弁当が良いなら自分で作ればいい話だし。でも、そこまでしようとも思わない。
だけど時々、やっぱり、いいなあと思ってしまうのだ。友だちが広げる、綺麗なお弁当を。

「ま、コンビニのご飯も美味しいんだけどね」

石田君も食べてみる?と、箸ですくったそぼろご飯を差し出してみる。
なにかを考えている風だった石田君は、一瞬で顔を真っ赤にさせて、椅子から落ちた。


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