授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。お昼休みは相変わらず石田君と昼食を共にしていて、今日は珍しく学食に行こうと二人で教室を出た。
石田君の半歩前を歩きながら、時折言葉を交わしつつ、階段を下りる。南棟にある学食へは、中央棟を一旦経由して、渡り廊下を進まなければいけない。
昼食の為と思えばそこまで苦になる道のりでも無いけれど、もう少し近くたってもいいのに、と中央棟の生徒が羨ましくなる。

中央棟を通り過ぎ、渡り廊下に差し掛かった辺りで、聞き覚えのある声に呼び止められた。

「朝日奈」
「、山崎先生」

ちょいちょい、と申し訳なさそうに手招かれる。先生に呼ばれるような理由も浮かばなかったので、首を傾げてみせれば「昨日の課題のことなんだけど」と言われてはっとした。
そういえば、持ってくるのをすっかり忘れていた。

山崎先生を睨むようにして見据える石田君に、先に学食に行っててと告げる。
石田君は眉尻を下げて困ったように私を見下げると、首を振った。

「私もお供します」
「大丈夫だよ、すぐ済むから」
「……ああいや、明日ちゃんと持ってくるならそれでいいんだ」

渋る石田君に、山崎先生は慌てて苦笑気味に告げてくれる。それが少し申し訳なくて、石田君に待っててと伝えてから先生に駆け寄った。
視界の隅に、伸ばされた右手が映る。

「だけど提出、俺じゃなくて萩原先生の方に頼むな」
「はい。ごめんなさい、山崎先生」
「いいんだよ、朝日奈は真面目な生徒だし、萩原先生も多目に見てくれるだろ。……石田とは、仲良くしてるみたいだな」
「え?あ、はい」

突然に石田君の話題となって、ちょっとだけびっくりした。
山崎先生は教師になって二年目だけど、意外としっかり生徒のことを見ている。……クラスに馴染まない石田君のことも、気にかけていた。それらは全て、石田君の視線のみではねのけられていたけれど。

「まだやっぱり、朝日奈以外とはロクに話してないみたいだが……朝日奈は大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。石田君は優しいし……私には他にも友だちがいますんで、何かあったら相談できます」
「そっか、ならいいんだ。呼び止めてごめんな」

軽く手を振る先生に、会釈をして石田君のところに戻る。

「ごめんね石田君、お待たせ」
「、いえ……何のお話をしていたのですか?」
「ん?何でもないよ、大丈夫」

ちょっと時間を使ってしまったから、既に学食が混んでいるかもしれない。早く行こう、と石田君の前を、もうほとんど慣れてしまった動作で歩き始めれば、石田君も私の後を追って歩きだした。
その表情が、ひどく哀しげな……複雑そうな理由を、私は知り得ない。


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