料理は得意ってわけじゃないけれど、出来ないほどでもない。
石田君はきっと和食が好きなんだろうな、と思いつつも、私が用意しているのは全て洋食だった。……和食は洋食以上に、作るのが難しいイメージがあるのだ。
ハンバーグ、プチトマトとツナのカップサラダ、うずらの卵ときゅうりのピクルス、オムレツ、ピラフ。昨日の夜に下ごしらえはしておいたから、少し寝坊をしてしまっても予定時間通りにお弁当を完成させることができた。

「みこと、弁当作ったの?」
「お母さん。うん、お友達と食べるんだ」
「ふうん……この卵のピクルス、美味しいね」
「ほんと?良かった」

今日は午前から仕事のお母さんが、弁当箱ではなくお皿に載っている方のおかずをつまんでいく。料理上手なお母さんに褒めて貰えるのは嬉しくて、つい笑顔になった。直後に、ハンバーグが少し焦げていることと、オムレツの不格好さを指摘されてしまったけれど。

「お母さんのも一応、用意したんだけど」
「へえ、嬉しい。ありがとねみこと。お昼に食べる」

石田君に渡す予定の、黒い弁当箱とは別に、お母さんのために用意した黄色の弁当箱。お母さんはもうひとつピクルスをつまんで、洗面所へと消えていった。

用意したおかずやご飯を石田君用の弁当箱につめて、兎が一匹描かれた和柄の弁当袋に入れる。箸もお揃いのをちゃんと入れて、よし!と腰に両手をあてた。我ながらなかなかの出来じゃないだろうか。
喜んでくれるかな、石田君。そう思いつつも、なんだか泣かれてしまいそうだと考える。身に余る光栄だとかなんとか、そんなことを石田君は言ってくれそうだ。
昔は知らないけれど、今は同い年の、普通の同級生なのになあ。


 **


「みこと様が、私に、弁当を……!?」

学校にて、昼休憩時。いつもの空き教室で石田君にお弁当を手渡すと、石田君は金塊かなにかを目の当たりにしているかのように、戦慄いていた。想像以上の驚きっぷりに、私までびっくりしてしまう。

「身に余る光栄でございます、みこと様……ッ!嗚呼、みこと様、どうか私に、貴女様から頂いた御弁当を食す許可を!」
「あ、うん。どうぞ?」
「有り難き幸せに存じますッ!!」

げ、元気だなあ。

予想通りの言葉も口にしてくれた石田君は、言葉の勢いとは裏腹にとってもゆっくりと包みを開いていく。私も石田君にもらったお弁当を開きながら、ちらちらとその状況を見守った。石田君は紅潮したほっぺで、ふるふると手元を震わせながら、とても丁寧に弁当箱の蓋をあける。そうして、僅かな吐息を漏らすと、ごくりと喉を鳴らした。

「石田君、和食好きそうだなって思ったんだけど……私、洋食しか作れなくて。嫌いだったら、残していいからね」
「滅相もありません!!みこと様御自ら用意してくださったお食事を残すなど、許されない事です」
「ええと……じゃあ、無理はしないでね」
「はい!!」

本当に元気だなあと思いながら、昨日より数段レベルアップした石田君のお弁当を咀嚼していく。たった一日で卵焼きを焦がさないようにした石田君は、もしかしたらとても料理が上手なのかもしれない。……味は、やっぱり少し塩辛いけれど。

いつも栄養ドリンクしか飲んでいない人とは思えない勢いで、石田君は私の弁当を食べていく。ちょっぴり焦げちゃったハンバーグも、形が不格好なオムレツも、少し炊きすぎてしまったピラフも。全てが至高の食べ物だと言わんばかりの表情で、けれど丁寧に食べていた。
私も昨日、こんな表情をしていたんだろうか。だとしたら、ちょっと恥ずかしい。
でも石田君が私と同じくらい喜んでくれていたのなら、それはとても嬉しいことだと思えた。

石田君と、もっとたくさん話したい。感情を共有したい。石田君のことをもっと知って、私のこともいっぱい知って欲しい。そう思う。
思うけれど、石田君にとってそれが必要なのかはわからなかった。石田君が私のそばにいてくれるのは、私が、過去に石田君が守れなかった人の生まれ変わり?だからだ。それが本当にしろ本当じゃないにしろ、私と石田君の関係はそれだけでしかない。

「とても美味でございました、みこと様。私のような者の為に、このように温かな手を差し伸べて下さる……みこと様は、私の神様です」

そうやって目を伏せる石田君に、笑みを浮かべる。

私は、石田君の神様、らしい。神様の妹もまた神ならば、神の生まれ変わりも神なのだ。
ほんの一瞬だけ、石田君から目を逸らした。

私は本当に、彼の神様なんだろうか。


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