よいしょー!とノリだけで偶然見つけた地下道へと入り込んだら、何かを下敷きにした。柔らかい。
何だ?と下に目をやれば、蛇みたいな目にどろりと睨め上げられる。……後藤さんだった。

「おお……お久しぶりです」
「いいから退けろ」
「すみません」

地の底から這い出るような声音で言われてしまえば、避けるしかない。踏んづけてしまってごめんなさいと再度謝ったが、ほとんど無意味なのは察せた。
後藤さんってこんな危ない目をしてたっけか。

「何でアンタがこんな所にいるんですかぁ」

数回、軽い頭で土下座をすれば、何となく許してくれたらしい後藤さんに問いかけられる。
数秒言い淀んで、家出をした旨を伝えれば、呆れたように見下ろされた。見下ろされたっていうか、多分見下された。

「で、これからどうするんです?」
「とりあえず黒田さんとこ行こうと思ってここに来たんですけど。……後藤さん、黒田さんがどこいるか知りません?」
「オレ様が知るわけないだろうがぁ!」

唐突に奇刃を振り回された。ふんがっ!と変な声をあげてなんとかそれから避ける。
この人、こんなに情緒不安定だったっけ!?

「ちょっ、ごと、後藤さん危なっ、うわたっ!?」

ぶんぶんひゅんひゅん振り回される奇刃から、命からがら逃げていれば、穴道の中をいくつも転がっている石に足を取られた。
あ、と思う間に身体は倒れかかっていて、追い打ちをかけるように奇刃があたしの喉元を狙って落ちてくる。
顔を真っ青にしながら銃を抜き、身体を半回転させつつ、奇刃に向けて発砲した。奇刃は銃弾によって軌道を逸らし、あたしから離れていって、後藤さんの手元に戻る。……あれはもしかして生きてるんだろうか?

「危ないじゃないですかあ!」
「アンタを殺そうと思って投げたんだから当然じゃないですかぁ」
「何で殺そうとするんですかあ!」
「閻魔帳第五位だからですよぉ」
「いつのまに!?ていうか順位高ッ!」

ぱらぱらと後藤さんの持つ閻魔帳とやらを捲り、どうやらあたしの名前が載っているらしい箇所で後藤さんはにやりと嫌な笑みをあたしに向けた。背筋が凍る。

こんなところで殺されたら家出した意味がない。
あたしはお嫁に行くんだ!なんか目的変わっちゃった気がするけどそんなん知らない!あたしは黒田さんのところに行って黒田さんに貰ってもらうんだからこんなところじゃ死ねない!!

「じゃあ後藤さんさいなら!」
「待てよぉ!!」
「待ちませぇん!!」

ひゅんひゅんと自由自在に飛んでくる奇刃から必死に逃げながら、あたしは黒田さんの名前を連呼する。
黒田さあん黒田さーん!聞こえてたら返事してくださあい!!


(□月◎日。天気不明。
 後藤さんに殺されかけた。お嫁に行けない。)



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