豊臣軍の中でも数少ない女兵士として生きてきて早、……ええと早何年だっけ。七歳くらいの時に半兵衛様に拾って頂いて今が……やばい今あたし何歳だ。誕生日なんていちいち気にしないから自分の年齢もわからない。とりあえず子供ではないのは確かだ。
とにかくまあウン年の時が過ぎてるわけだが、あたしの地位はとても低い。
最近三成さんに拾われてやってきた左近くんにもあっという間に越されてしまったような気がするくらいには低い。半兵衛様にも申し訳が立たないと思いはするけれど、どうしようも無いのが地位というものである。あとまあまずあたし女だし。

「鈴、そんな所で何をしている。休む暇があるのならば秀吉様の為、働け」

今、あたしの背中を蹴り飛ばして来たのがかの三成さんである。秀吉様に拾われて小姓として働き、今は秀吉様の左腕として豊臣軍にいたく貢献していらっしゃる、三成様々だ。おわかり頂けると思うけれど後半は皮肉です。
年の頃はあたしとさほど変わらないはずなのに、この人はとても偉そうに喋る。あたしに対しての当たりもきつい。ぶっちゃけすっごい嫌われてんだろうと思う。

「休んでるんじゃなくて心身を落ち着けてるんですよ」
「言い訳を聞くつもりはない」
「あたしは鮪や馬車馬のようには動けない人間なんです」

さっき三成さんに蹴飛ばされて縁側に転げ落ちたあたしは、膝と両手をぱんぱん払いながら立ち上がり、再び縁側に腰をおろす。
そんなあたしの様子を忌々しそうに見下げ、三成さんは鼻を鳴らした。何でこんな奴が半兵衛様の下に就いてるのかが理解できない、もしくは不快でならないといった感じの鳴らし方だった。正直なところそれはあたしも訊きたい。

「何故貴様のような女が秀吉様の軍にいるのかが理解できない」
「おお……ちょっと違った」

そんで結局口にしちゃうのな、と少し笑ったのが癇に障ったのか、三成さんはぎろりとあたしを睨め付けてきた。
毎度毎度思うが、この人は短気すぎやしないだろうか。秀吉様や半兵衛様の前にいるときは誰だ貴様と思ってしまうくらい幸せそうなのに、それ以外の気にも留めてないような人間の前だと躾のなってない犬のようだ。あっ、あたし今すごい当を得た例えをした気がする。
刑部さんや左近くんにはこの人の躾をちゃんとしてもらいたいものだ。……左近くんは躾られる側だろうか?

「私を馬鹿にするのか、鈴」
「別にしてないですよ」

そろそろ逃げた方が良いだろうなと思いつつ立ち上がり、三成さんを視界に入れたままじりじり後退する。
それとほぼ同時に三成さんが刀を抜きかけた。どろりとした暗い紫の靄が刀を覆っている。怖い。
こんなんに斬られたらたまったもんじゃないと口元を引きつらせた瞬間、ガッと何かが踵にぶつかった。ぐらり、身体が後ろに傾く。一瞬目をやって確認したのは、まあるい石だった。数日前に黒田さんが躓いた時の石によく似ている気がするが、気のせいだと思いたい。

「うぉあっ!」
「ッ……!?」
「あ痛ーっ!!!」

ざしゅ、なんてあまり聞きたくない音と一緒に、あたしは庭にすっ転がった。どてんと思いっきりぶつけた尻が痛い。けれど、それ以上に三成さんに斬りつけられた瞼が痛い。

「ひ、ひ、ひどいです三成さん!今まで斬ろうとした事はあっても本当に斬ってきたことは一応ギリギリ辛うじて無かったのに!!しかもおでこと瞼って!いった!めっちゃ痛い!!」

額の真ん中当たりから左目の瞼にかけてがざっくり斬れてしまっている。この深さだと痕になるかもしれない。だらだらと流れる血が左目に入って泣きそうだ。痛みには慣れている分、結局涙は出ないけれど。
三成さんはわーわー喚くあたしを、困惑したような表情で見下ろしている。一歩足を踏み出して、けれどすぐに背を向けた。おい、おい、謝れよ。仮にも女の顔に傷付けといてそりゃないぜ三成さん。

「……薬師を呼んでくる」
「その前に言うことは無いんですか!」
「私は傷を与えるつもりは無かった。貴様が勝手に私の刀に当たったのだ」
「ひいい怖いこの人!」

その後、城仕えのお医者さんに血止めの塗り薬をつけてもらい、包帯を巻いてもらった。ついでに腰に湿布も貼ってもらった。
「これは痕が残るでしょうねえ」と苦笑気味だったお医者さんに口をへの字にして、心の中で三成さんを呪ったのは致し方ないことだと思う。

今日から前髪伸ばそう。


(○月×日。晴れ。
 三成さんにおでこと左瞼を斬られた。お嫁に行けない。)



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