ネグリジェ!!と思わず叫びそうになったのを必死におさえ、わたしはもういっそ殺せよといった気持ちで石田さんに着替えさせられていた。
全身を念入りに拭かれ下着を着させられるだけでも精神ダメージやばかったのに、パジャマがネグリジェだと?しかも無駄にえろ可愛いデザインなのがまた……うん……。谷間無くてごめんなさい……。
えろかわいいネグリジェに手錠と足枷というコンボがシュールすぎて震える。石田さんめっちゃ満足そうにこっち見てるけど。恍惚の目つきだけど。頭湧いてんのかこの人。

「美しい……」

頭湧いてたこの人。


わたしの居場所はさっきの部屋に戻り、手錠だけが外される。あれはこの部屋から出たときの為だけらしい。
まあ、腕力では到底この人に敵わないだろうし、あっても無くても一緒だろう。元よりわたしに抵抗する気が無いので尚更。
石田さんは丁寧にわたしの髪を拭き、梳かし、ドライヤーで乾かしてくれた。ドライヤーの温風が心地良くてうつらうつらとしかけてしまうのだが、石田さんの指先が時折耳をくすぐるので落ち着いていられない。昔から耳は弱いのだが、ここでそれを悔やむことになるとは思わなかった。

「ともこは耳が弱いのだな……」

耳をくすぐられる度にわたしがびっくびく肩を揺らすもんで、石田さんは愉しそうに耳元でそう囁き、髪を乾かすことより耳をいじくることに熱を上げ始めた。
気持ちとしては「やっ、やめ、……っやめろクソが!!」くらいのアレなのだが、このぶっ飛んだ人相手にカチキレる勇気があるわけもなく、びくびくとされるがままである。むかつく。

「ともこ……なんて愛らしい」
「――っ!?」

くちゅりと粘っこい音が鼓膜をダイレクトに揺らしてきたのと、耳の中にやらかい感触が侵入してきたのはほぼ同時で、思わず大仰に肩を跳ねさせたわたしはそのままベッドの下へと転がり落ちかけた。ぎりぎりのところで石田さんにお腹を抱えられ顔面ショットは免れた、が、いっそ床とキスした方がマシだった。

「耳は、だ、だめ……です」

もうほとんど泣いてるような顔で石田さんを睨めば、石田さんは愉しそうに口元を歪ませ、わたしの耳たぶを撫でた。そのまま涙の浮かぶ目尻に口付けられ、申し訳程度の謝罪が降ってくる。

「私を、拒絶するな……」
「……」

そうしてきつく抱きすくめられる。両の手と肺がいささか苦しかったけれど、この人の情緒不安定ぶりに痛む頭の方がひどかった。
さっきまで愉しそうだったじゃん。わたしのが泣きそうだったじゃん。なんでこの人のが今泣きそうなの?わたしが悪いみたいになってくんだけど。

「…………」

暫くの葛藤を終え、わたしは石田さんに抱き締められたまま目を伏せる。
元々眠かったのだしこのまま寝てしまおう。わたしにはこの人を抱き締め返したり背中を撫でてあげたりするような義理は無いのだから。

「ともこ……眠ったのか」

目を瞑ったまま石田さんに体重を預けていれば、少し経って石田さんがわたしの表情を窺う気配があった。わたしは目を閉じたまま。

「そうか……」

石田さんはわたしをベッドに横たえ、自分もわたしの隣に身体を滑り込ませる。柔らかくて軽い布団をかけると、わたしの頭の下に片腕をいれ、わたしの腰に反対側の腕を絡ませてきた。そうして額に口付けると、石田さんからも眠りにつく気配。
いくらか時間が経ち、わたしの額に石田さんの寝息がかかるようになった頃、わたしは瞼を押し上げた。視界は、石田さんの胸元で埋まっている。

(何でこの人、口にキスしないんだろう)

えろい手つきで触ってくるくせに、ヤろうとはしない。額やら鎖骨やら目尻には口付けるくせに、唇には絶対に触れない。
監禁までするくせにそうしないのが不思議なだけで、もちろんそれらをして欲しいわけではないのだけど。
現に、今もわたしの両腕には鳥肌が立っている。

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