確かにお風呂に入りたいなとは思っていた。思っていたさ。
石田さんがわたしを拉致ったのが昨日の夜だとするならば、もう一日以上ぎり二日未満くらいお風呂に入っていないことになる。
だがこれは完全に一緒に入るもしくは洗われるパターンのやつだ。何故なら風呂に入るぞと言いながら石田さんに手錠をつけられたからです。何プレイだこれ。
足についている鉄枷は、鎖だけを鍵で取り外しできるタイプだったようで、それは石田さんの手によりあっさりと外された。が、手も足も不自由なことに変わりはない。顔面真っ青である。

そんなわたしを石田さんはひょいと横抱きにし、部屋の扉をあけた。イケメンにお姫様抱っこされているという状況も、わたしの精神状態にはなんの影響も与えない。
それより初めて目にする部屋の外は、存外普通のマンションの一室であった。わたしが住んでいたアパートとは雲泥の差がある、超高級そうな部屋だが。何畳あるんだろう。そしてびっくりするくらい物が無い。
石田さんは何を言うでもなく、真っ直ぐにおそらくリビングだろう部屋を突っ切っていく。そのまま連れて行かれた浴室はこれまた広くて綺麗だった。

これで手枷と足枷と石田さんが無ければ、テンションも上がっただろうに。

脱衣場にわたしをおろした石田さんは、服を脱がすためワンピースのボタンに手をかける。が、そこではたと手が止まった。
脱がすのに手錠が邪魔だと気が付いたらしい。存外抜けている人である。

「……」

暫く沈黙していると、石田さんはわたしの手錠をいったん外した。逃げるチャンスかとも思ったけれど、この足枷があるままでは走ることもままならないし出口がどこかもわからない。結局、わたしは大人しくされるがままでいる。
ワンピースを脱がし、ブラも外すと石田さんは手錠を付けなおした。どうやら下着も石田さんチョイスのものに替わっていたらしく、紐で結ぶタイプになっていたパンツも足枷を邪魔にすることなくあっさりと脱がされた。
顔を知って数時間程度の男に全裸を見られているとか、本当にどこのエロ漫画だ。恥ずかしいとか以前にもう虚無顔で肩をすくめるしかない。

「とはいえあまりにもまじまじと見られると恥ずかしいんですが……」

石田さんは相も変わらずうっとりとした目でわたしの全身をくまなく眺めている。こんな貧相な身体を見てなにが楽しいんだろうか。あと勃ってんの見えてますやめて。こわい。

「恥ずかしがる必要はない。綺麗な身体だ」
「……どうも……」

わたしの肩を撫で、石田さんは鎖骨の辺りに口付ける。
ていうか全裸で立たされるのわりと寒いんですけど、と半分泣きそうになっていれば、石田さんも服を脱ぎ始めた。無駄な肉なんてカケラも無いような体躯を目の当たりにし、思わずすげえ……と目を見張ってしまう。腹筋、腹筋やべえ。あと二の腕もやべえ。痩せているのにがっちりしてるってどういうことなの?細マッチョすごい。

「どうした?」
「イエ……」

石田さんから自分の身体に目線を落として、ちょっと泣きそう度がアップした。胸はほとんど無い癖にお腹はぷにぷにしている。二の腕も太ももも、筋肉なにそれ食えるの状態である。つら。
何でイケメンにこんな全裸見せなきゃいけないんだと遠い目をしているうちに、全裸になった石田さんに再び抱えられた。ウワァあたってるあたってるやめて。何がとは言わないけど落ち着いてください。

しかしそこからアッーな展開になることはなかった。石田さんは完全に興奮しきってたけど。
いや微妙にアウトっちゃーアウトだったんだけども。素手で全身をくまなく洗われたのはまじでなんかもう死にたかった。手つきがえろいのがまたきもちわ、いや何でもない。鳥肌立ちまくってたけど石田さん気にならなかったのだろうか。

「ともこは寒がりなんだな」
「ソッスネ……」

浴槽で後ろから抱きかかえられていても、もう何も言う気にならない。
とりあえず尻に当たってるそれどうにかしろよと頭を抱えたかったが、それを言ってしまえば自滅するのが目に見えていたので、気が付かない振りをした。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -