まあ無理矢理ヤってくるくらいじゃないんだからなんとかなるだろう、なんて楽観していた数分前の自分を殴りたい。わたしは用意された飲食物を目前に顔を青ざめさせていた。

(な、なんか入ってるう〜…)

飲み物が完全にカルピス(意味深)だよおと顔を覆ってうなだれる。イカ臭い室内に涙がこぼれそうだ。私はこれを飲まなきゃいけないのだろうか。
手を付けない私を不思議そうに見下ろす石田さんのぶっ飛びっぷりを舐めていた。
こんなもの飲むくらいなら直で飲まされた方がまだマシだ。ほら舐めてやるよパンツ脱げ状態だ。わたしそんな肉食女子じゃないけど。
食べ物の方はパッと見、問題無さそうだと思う。だけどこんなぶっ飛んだ飲み物を出された以上、食べ物の方も怪しんでしまう。シチューってところがまた、なんか、うん……。

「どうした、食べないのか」
「エッ、いやあの、いえ……ハイ……」

飲み物の方、あれ放っておいたら飲まなくてすんだりしないだろうか。でも時間が経てば経つほど臭いがやばくなっていく気がする。どうしよう、そんなの無理矢理口に突っ込まれたら吐く自信しかない。
とりあえずシチューは頑張るしかないだろうと既に胃液が逆流しかけている食道を叱咤し、わたしはスプーンを手に取った。ほかほかのシチューを掬う。ごくりと生唾を飲み込み、意を決してわたしはシチューを口に含んだ。

「…………」

咀嚼するわたしを、石田さんがまじまじと見つめてくる。どこか興奮した顔つきで。
わたしは、何だ普通のシチューじゃないかと二口目に手を伸ばす。とりあえずカルピス(意味深)の方は無視だ。喉も渇いているけれどあんなのはさすがに飲みたくない。シチューおいしい。

「美味いか」
「はい」
「そうか」

飲み物に手を付けないのは不服なようだけれど、わたしがぱくぱくとシチューを食べているのでどうやら満足してくれたらしい。
ベッドに腰掛けて食事をとる様子を、真正面から仁王立ちで見つめられるのはどうにも居心地が悪いが、そんなもの気にしていてはこの先やっていけない。わたしはなるたけ平和に生きたい。

「ごちそうさまです」

シチューを食べ終え、手を合わせる。
と、石田さんは無言でまだ残っているぞとでも言いたげにコップを差し出してきた。さっきより更にイカ臭さが増した例のアレである。わたしの顔が再び青ざめる。

「嫌いだったか?」
「……エッ、あ、そうですわたし、ええと野菜ジュースとお茶しか飲まないようにしてるんで!」
「そうか……すまなかった」

よっしゃあ!と心の中でガッツポーズ。石田さんは思いの外あっさりと引いてくれた。
空っぽになったシチューのお椀と意味深な飲み物の載ったトレーをさげ、部屋を出て行く石田さんを見送る。これで一難去った、とわたしは胸をなで下ろす。

「ともこ、風呂に入るぞ」
「うええい」

誰だよ一難去ってまた一難なんて言葉作った奴。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -