どうにも精神がどっかイっちゃってる石田さんの話をまとめてみる。
と、意外にも彼はわたしと同じ大学の人間であった。学部は違うようだけど、大学の敷地内で見かけたわたしに一目惚れをしたらしい。まったくこれっぽっちも記憶に無かったが、バイト先にも顔を出したことがあるそうだ。
いつか告白しようとわたしを想い続けていたそうだが、ある日わたしが大学に姿を見せなくなる。それは前述した通りわたしが休学しだしたせいなのだが、そんなこと石田さんは知るよしもない。
ぶっ飛んだ石田さんの思考は、わたしが彼を避けている、自分を拒絶することは許さない云々――まあそこら変は聞き流していたのであまり覚えていない――となり、そこからなんやかんやでわたしの所在をつきとめ、この部屋に監禁した、と。
石田さん曰く、永劫に私の物にするため。

長ったらしい妄想に付き合うのは辟易としたが、それ以上にこれは正面切って否定したらあかんやつやとわたしは冷や汗を流した。
この人はやばい。「いや避けるもなにもわたしあなたのこと知らないし」とか言ったら発狂しかねんのではなかろうか。いやまあ名前訊いちゃったからあれなんだけど。
そして何がやばいって、この人すごいわたしに夢見てる。俺の考えた理想のともこちゃん状態になってる。
それらをつらつらと語られた際には、か、勘弁してください!とベランダから飛び降りたい衝動に駆られたので、ここではその内容は割愛しておくが。

「えーと……つまりわたしはもうこの部屋から出られない、というか石田さんから離れられないと、そういうことで良いでしょうか」
「そうだ。貴様は私の物だ。離れることは許可しない。私を拒むことも」
「はあ、そうですか」

そうですかじゃねーだろと脳内でもう一人のわたしにツッコミを入れられてしまったが、そうとしか言いようがなかった。だってこの人目がイっちゃってんだもの。
無理矢理ヤられなかっただけマシだと思うべきだ。着替えさせられてるから裸は見られた可能性高いけど。むしろ脱がしておいてよくヤらなかったなこの人。わたしが貧乳だからか?あまりの質素さに萎えたのか?

「ともこ……」

だが、まあ、考えてみる。
イケメンがうっとりとした目つきでこちらをじっと見つめてくる。盲目的なまでにわたしへ情愛を向けている。これはなかなか体験できる事じゃないだろう。
下手に逃げたり怯えたり抵抗したりして、彼を刺激するのはあまりよろしくない結果を招きそうだ。わたしは痛いのも怖いのも嫌いである。それにこの人は……なんだ、夜中に暗闇で見かけたら絶叫しそうなほどのホラーっぷりを発揮しそうだ。顔が整っている人間はそれだけで妙な怖さがある。わたしはそんなの体験したくない。
なら、適当に流しておくのが一番だろう。イケメンに好かれるのは悪くない。うん。無理矢理自分を納得させ、鳥肌を立たせる自分の両腕を撫でさすった。

この人の夢が醒めるまで、わたしは人形にでもなっておけばいい。
人の言いなりになるのは慣れている。

「……とりあえず、喉が渇いたんですけど……」
「ああ、そうか、そうだな。昨日から何も口にしていないだろう……今用意する」

優しい笑みを浮かべて、わたしのこめかみに口付け名残惜しそうに離れていく石田さんは、とても満足そうだった。
欲しかった物が手に入ったからか、一度は逃げた獲物が殊の外従順だったからか。
わたしはなるべく、この満足げな石田さんのままでいてもらうよう、努力しなくてはいけない。

面倒なことこの上ない。
がちゃりと閉められた扉を見つめ、わたしはわざとらしい溜息を吐いた。

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