――鍵を、元の場所に戻した。

そしてさっき離れたばかりの椅子に再び腰掛け、テレビの電源を入れる。適当にチャンネルを回していればお笑い番組の再放送をしていたので、なんとなくそれを見始めた。

何故鍵を開け、扉の向こうへと足を踏み出さなかったのか。
理由は単純明快。わたしは石田さんの報復が怖かった。それに、あの人を野放しにはしたくなかった。
わたしの与り知らぬところで、あの人がわたしの為に行動している。……いや、正確には自分の為、わたしという存在を利用して行動している。それが嫌だった。
それならばわたしの目の届く範囲内で行動してくれた方が、よほどマシだと思う。これからあの人の扱い方を知り、手綱を持つことが出来るのならば。わたしは人形として生きずにすむだろうと安直な考えに至った。
そしてそれは存外、不可能な未来では無いように思えた。

だからわたしはここに留まる。
石田三成という人間を受け入れる。

わたしが受け入れてしまえば、拉致監禁もそうではなくなるはずだ。元の部屋は引き払い、必要な家具やらなんやらは石田さんに頼んでこっちに運び込めばいい。
家族や友人にはなんて説明したものだろうか。結婚を考える彼氏が出来たので同棲するとでも言えばいいのだろうか。親からは反対される未来しか見えないけれど、他に説明する方法も浮かばない。まあ、うちの家族は大概放任なところがあるから、きっとなんとかなるだろう。
石田さんが帰ってきたら、その話をしなければ。部屋を引き払い、引っ越しの準備をするためにはわたしはここを一旦出なければいけないのだから。恐らく、石田さんも共に行くのならば、外出も許可されるだろう。そうでなければやってられない。
白いワンピースだけでなく、新しい服も欲しいのだ。自分の目で見て、自分の好きな服を買いたい。それくらい許してもらってもいいだろう。
石田さんと外でデートしたいとでも言えば、意外と陥落は早いんじゃないだろうか。

そんな不確定な未来を考えながら、わたしはテレビをじっと見つめる。
画面の真ん中に立つ芸人が、楽しそうに笑いながら相方らしい男の頭をはたいた。


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