その日は三成と共に、ベッドで眠りについた。
どちらかがソファで眠ることも考えなくはなかったが、どうせ三成は拒否するだろうと思ったのだ。

三成は私の方へ身体を向け、全身を絡ませるように私を抱き締めて幸せそうに眠っていた。
なるほどこいつはこんな寝顔をするのか、と、人の気配で浅い眠りにしかつけなかった私は、目前の整った顔をまじまじと観察してみるのであった。
時折眉を寄せはするものの、概ね幸せそうな顔である。
まず、これがここまでしっかりと眠っている姿を見ることすら初めてだなと、私は緩慢な動作でそれから視線を離した。


そして翌朝。

「……ああ、もしもし?朝早くにごめん、起きてた?…そう、ならいいんだけど、ちょっとお願いがあって」

ソファの下、カーペットの上に行儀良く座ってサラダを咀嚼している三成を、ソファに座って眺めながら友人に連絡を取る。
携帯の向こうから聞こえてくる声は、朝の七時台にも関わらず溌剌としていて、聞いているこっちが少なからずなんらかのダメージを負っている気分にさせられた。その溌剌さこそが、彼の良いとこなのだけど。

「うん、じゃあごめんね。よろしく。お金は後で渡すから」

詳しくは後で話す、と言った私にあまり詳しくは聞いてこず、ただ私の要求を快諾してくれた友人に笑みを浮かべ、通話を切る。
その頃にはサラダを半分ほど食べ終え、緑茶を音も立てずに飲んでいた三成が、不安げに私を見上げていた。
どうしたのと髪を梳くように頭を撫でれば、一瞬嬉しそうに目元を綻ばせたものの、すぐに表情は元に戻る。怪訝な顔をしてみせる私に、三成は縋るように私の腹に顔を埋めた。

「さっきのは、誰だ?」
「……友だちだよ。三成が生活するために必要な物を買ってきて、ってお願いしてたの」
「それは、本当か?嘘を吐いては、いないのか」

依存性や執着心だけでなく、束縛心まで強いとは。
その言葉に苦笑し、三成の前髪を掻き上げるように頭を撫でてやる。そうすれば三成は少し驚いて目を瞑り、私の身体から離れまいと背に回した腕に力を込めた。

「私は三成に、嘘なんて吐かない」

ああほら、まただ。三成の瞳に、妙な光が灯る。
それは光と言うにはあまりにも暗すぎて、私は苦笑を溢すことしかできない。

中身が覚えていなくても、身体は覚えているんだろうか。
私が三成に嘘を吐き、約束を違え、彼を置いて逝ったことを。

「……ならば、良い」

三成は静かに頷き、また私の腹に顔を埋めた。すりすりと甘えてくる様をぼんやり見下ろしながら、すっかり冷めてしまったカフェオレの入ったカップを手に取り、喉を潤す。
反対の手では三成の頭を撫で続け、そういえば昨日から煙草吸ってないな、と思案した。

買い物を頼んだ友人が来れば、三成の意識はあちらにも多少向くだろうか。
元より私以上に強い感情を向けていた相手だから、その可能性は有り得る。その逆も、まあ、なきにしもあらずだが。
煙草も、私の朝食も、全ては彼が来てからだろう。そうして私の負担が、多少なりとも減ってくれればいいのだけど。

家康、早く来ないかな。
私は三成の髪を梳きながら、カップをテーブルに戻し、目を閉じた。


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