三成の身体を拭いて、そこで初めて私は着替えが無いことに気が付いた。
まだがっつり真冬、では無いとはいえ、全裸でいさせれば風邪をひきかねない。あれはああ見えて頑丈な人間だったけど、まず私が見ていて寒い。
どうするべきか思案しつつ、とりあえず私が持っている中でサイズが一番大きいTシャツとパーカーを着させる。問題は下着だ。
下半身にはバスタオルを巻いてからソファーに座らせる。ソファのすぐ後ろがベッドになっているので私はそこにあぐらをかいて座り、三成の頭をタオルでがしがしと拭いた。

この時間となると、コンビニに買いに行くのが一番だろう。
だけどこの三成が、たとえ数分でも留守番をしてくれるとは到底思えない。かといって下半身裸の三成を外に連れて行くわけにもいかず、私は途方に暮れた。

「今から髪乾かすから、大きい音と温かい風がくるけど、驚かないでね」

こくりと頷く三成に、ドライヤーのスイッチを入れる。
一瞬びくりと全身を震わせたけれど、三成は大人しくドライヤーの温風を受けていた。温かさが心地良いのか、ちらと覗いてみれば目を閉じてうっすら微笑んでいる。……少し、怖い。
だいたい乾いたところでドライヤーのスイッチを切り、手ぐしで三成の髪を整えた。

「佐羽の手は、あたたかいな」
「……そう?」
「ああ。佐羽は私を拒まない。温かく、優しい手だ」

三成はまた私の手をとり、ゆるく撫でさする。終いには頬ずりをされて思わず表情を引きつらせてしまった。
私はこんな状態の三成に、慣れることが出来るんだろうか。

自分の髪も乾かしていれば、三成はソファの上に姿勢良く座り、私をじっと見つめてくる。
それはどこか、従順な犬のようにも思えたけれど、やっぱり私にはあまり気持ちの良いものではなかった。
記憶の中の三成と、今目の前にいる三成との齟齬が、あまりにも大きすぎる。
もしかしたらそれなりにかわいいものなのかもしれないけれど、どうしても気味が悪い、という感情の方が勝ってしまう。
だとしても、これを見捨てることなんて出来ないのだが。

「ねえ三成、ほんのちょっとの間だけ、一人でいるのは嫌?」

髪も乾かし終えて、風呂上がりの一杯を飲みながら話しかける。
三成は相変わらず下半身にバスタオルを巻いたままの格好で、私の方をじぃっと見つめていた。よくもまあ、そんなに私ばかりを見ていて飽きないものだ。

私の問いかけに三成は大きく目を見開いて、凄まじい速度で私に飛びついてきた。だん、と鈍い音をあげてコップがフローリングの上に落ちる。割れてはいないようだと、心の隅で安堵した。
うぐ、と全身への衝撃に呻く。三成はぎゅうぎゅうと強すぎる力で私を抱き締めてくる。

「いやだ、嫌だ。私を一人にするな、佐羽。私を置いていくことは許さない」
「……でもね、三成の着るものが無いと、外に出られないでしょ?」
「そんなものはいらない。佐羽だけがいてくれれば、それでいい」

ううん、と未だ強く私を抱き締めたままの三成に、心の中でなんとも言えない笑みを浮かべた。

これは、重傷だ。
元から三成は確かに依存気味な人間ではあったけれど、ここまでではなかった。
むしろ一人を好む人間だったし、構われることがあまり好きでは無かったように思う。
許可無く私が三成に触れたときなんて、凄まじい表情で手を振り払われたものだ。ただ、髪についた汚れを払ってやっただけだったのに。
それが、一人を拒み、自ら私に触れてくる。しかも私さえいればいいと来た。
本当にこれは、手のつけようがない重傷さだ。

もしかしたら、自分が居た世界とは異なる世界にいる、という事が、余計に彼の依存心を強めているのかもしれない。
本能的に心寂しさや空虚感を抱いているんだろうか。
私や、他の奴らでさえ放り出されなかった世界から捨てられたのだから、そう考えれば、当然なのかもしれない。

だけどこれは、ただの刷り込みのようにも思える。
目前で動いた物体を親と認識し、以後それに追従して、一生愛着を示す現象だ。
私が三成を拾ったから、いろんなものを失った三成がこの世で一番最初に見たのが私だったから。だから三成は、ここまで私に依存し、執着している。

「……うん、わかった。ごめんね、三成を一人にはしない。下着や服は、明日、誰かに頼んでみよう」
「本当か?私をひとりに、しないか?」
「大丈夫、私は三成を置いて、どこにも行かない」

その一瞬、三成の瞳に仄暗い光が灯ったことに、気付かないわけではなかったけれど。

私はただ、やっかいな事に首を突っ込んでしまったと、改めてため息を吐くことしか出来なかった。


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