連絡をすっかり忘れてしまっていたせいで、その日も家康は晩ご飯の材料片手に我が家へとやってきてしまった。材料を見るに、オムライスが食べたかったようだ。

「え、ああごめん、三成消えちゃった」

あっけらかんと伝えた瞬間に買い物袋をどさりと落とした家康の顔は、それはもう傑作だった。
驚きと悲しみと喜びが混ざって、もうなにがなんだかわからない顔。そうそう見られるものじゃないだろう。

「き、え、消えたって、消えた……のか」
「うん。朝起きたら三成も甲冑も無くなってた」
「え、そ、それで三成は、大丈夫……なの、か?」
「さあ?大丈夫なんじゃない」

落とされた買い物袋の中にある卵が無事かどうかを確認し、ヒビが入ったものを優先的に使ってオムライスを作ろうと決める。
いつまでも玄関に立ち竦んだままの家康に「入らないの?」と問いかければ、がっしと勢いよく両肩を掴まれた。なによと非難がましい目線を向ける。

「何で佐羽はそう、あっさりしてるんだ……!」

お前はいつもそうだと混乱気味らしい家康に詰られ、そうだろうかと自分を振り返ってみる。別段そんなことはないと思う。
「ワシが豊臣を離反すると言った時も、「そうなの?ふうん」で済ませただろう!」と言われて初めて、ああそういえばそうだったなと思い出した。
存外、私は適当に生きている人間だったようだ。そりゃ三成との仲が良好になるはずも無いだろう。

「家康は意外と気にしぃよね」
「本当にお前は……」

くすくすと笑いながら、「台所周りは危ないからソファにでも座ってて」と、思わず口にしてしまう。それを耳にした家康はきょとんと目を丸くさせ、私の肩に手を置いた。

「佐羽……ワシは子供じゃあないぞ」
「知ってるよ……」

うんうんワシは全部わかってるからなとでも言いたげな表情で、家康は目尻に涙を浮かべながら優しく笑い、リビングへと入っていった。が、ソファには座らない。
わざわざクッションじゃなくても、座り心地の良いソファに座ればいいのにと思いつつ、私はオムライスを作る準備を始めた。
そこに座りたがらない理由なんて、もちろんわかっている。

「そういえば元親に佐羽の料理のことを話したら、遊びに来たがっていたぞ」
「長曾我部ねえ……まああの時代の三成に関しては割とお世話になったし、一度呼んでもいいんじゃない?」
「だそうだ元親!」
「なに電話してんの」

三成がいなくなっても、私の生活に変化は無い。むしろやっと自由に外出できるし、バイトも探せるし、いない方がずっとマシなくらいだ。
あの三成は、の話である。

「邪魔するぜぇ三芳!」
「よく来たな元親!」
「久しぶり、長曾我部。適当に座ってて」

もし三成が私たちのように転生して、この世にちゃんとやってくるのなら。
私はきっとそれを喜ぶだろうと思う。今度は家康と、仲直りしてもらわなければ。

「お、ソファあるじゃねえか!」
「そこは駄目だ元親」
「長曾我部はクッションで充分でしょう」
「何でだよ!?」

とりあえず、ソファに座ろうとした長曾我部の頭を思わずはたいてしまうくらいには、私は精神が幼くなった三成との生活を楽しんでいたらしい。


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