すやすやと眠っている三成を足の上からそっと避け、立ち上がる。
三成の頭はクッションの上に載せておいて、私は煙草の箱とライターを片手にベランダへと足を向けた。

「私煙草吸ってくるから、もし三成が起きたらあやしておいて」

よろしく、と声をかけて口角を上げてみせる私に、家康はわかりやすく狼狽える。

「え、ちょ、ちょっと待ってくれ。煙草ならいつも部屋で吸って……、」
「気付いてくれたのなら何より。さすがにこの三成の傍で吸う気にはならないわ」
「そ、…れはそうだが……」
「助けて、くれるんでしょ?」

煙草の箱を掲げての私の笑みに、家康はぽかんと開けた口、焦り気味の縋るような目線を向けて、でもすぐにかぶりを振った。溜息も一緒に、漏れ出る。
「本当に変わらないな、佐羽は」との言葉にくすくすと肩を揺らして、私はベランダへと続く戸を引いた。
冷たい風に目を細め、音が鳴らないよう、そっと戸を閉める。
ガラス戸の向こうで家康は、ベランダに出た私と、まだ眠っている三成とを交互に見やって、額に片手を当てていた。

数時間ぶりの煙草はどうしようも無いくらい、落ち着く。
深呼吸をするように煙を吸って、吐いて、今更だけど自分が思いの外興奮状態にあった事を再確認した。
脈動が、少しずつ静かなものになっていく。
何度も煙を吸って、吐いて、そんな動作を繰り返して、宙を揺蕩う紫煙にぼんやりと視線を向けていたら、不意に室内から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「佐羽、佐羽…っ!?佐羽、どこだ、わたしをひとりにしないと言ったのに、佐羽、」

目を覚ました三成が、私を捜しているらしい。ベランダに出て少し端の方に寄っていたから、どうやら三成には此処にいる私が見えていないようだった。
涙を流し暴れようとする三成に、家康が必死に声をかけているのが見える。
背中を撫でて、「佐羽はすぐに戻ってくるから!」なんて、慌てたように三成をあやす家康の姿は、彼には悪いけれど見ていてなんだか笑えた。
相手があの三成なのだから、それも仕方ないというものだ。

煙草を灰皿の中に落とし、カラカラとわざと音を立ててベランダの戸を引く。
勢いよく三成の視線が私に向き、そのままの勢いで家康の身体をはねのけ、私へと飛びついてきた。
後ろ手に戸を閉めていた私の肩が、ガラス戸にぶつかる。
「あ、」といった風に、家康の表情が歪んだ。

「佐羽、私をおいていくな、佐羽……っ佐羽、ひとりは嫌だ」
「ちょっと外に出ていただけだよ。私は三成を置いてなんていかない。それに、三成は一人じゃなかったでしょ?家康がいたじゃない」
「……っ、」

私の肩に顔を埋めていた三成が、家康へと顔を向ける。
どんな表情をしているのだろう。私にはそれを見ることは出来ない。
けれど家康は、確かに、泣きそうな顔をしていた。泣きそうなのを耐えて、困ったような笑みを、浮かべていた。

「私は、あれは、嫌だ」

そこにあったのは確かな拒絶と、薄らと見え隠れしている嫉妬心だった、と思う。
家康は三成から目を逸らし、私へと微笑みかける。「困ったな、」そう言って頭を掻く家康に、再び私の肩へと顔を埋める三成。

もしこの事態が長引くのなら、私は三成を家康に慣れさせるところから始めなきゃいけないのだろうか。
なんとなくそんなことを考えながら、胸の内で小さく舌を打った。


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