そんなこんなで、今あたしと先輩、ゴンとキルアの4人は天空闘技場へとやって来ていた。
251階、高さ991メートル。世界第4位の高さを誇るらしい建物。
受付へと続く長蛇の列に辟易しつつ、あたしはここで起こるはずの出来事に思考を向けていた。

この世界に来て2年以上。さすがにそろそろ記憶も危うい。
いっそメモっとくべきかとも思うけれど、そんなメモを万が一先輩以外の誰かに見られでもしたら、と考えると無謀なことは出来ない。毎日記憶を反芻するくらいしか、やれることは無いだろう。

天空闘技場では、ゴンとキルアがズシと出会い、ウイングさんと出会い、念を覚えてゴンがヒソカと戦う。それくらいしか覚えてない。あとヒソカとカストロの戦い、200階での洗礼くらいか。
修行にどれくらいの月日をかけていたかなんてもう記憶の彼方だ。
先輩は1ヶ月くらいと言っていたけれど、そんな短期間じゃ200階に上った頃のゴン達とは一緒にいられないんじゃないかなあと思う。
ううん、と色々考えてはみるけれど、わからない事と思い出せない事ばかりの思考はなんだか無意味に思えてきた。
そろそろ受付も見えてきたし、とりあえずこの思考は打ち切ることにしよう。


「天空闘技場へようこそ。こちらに必要事項をお書きください」

受付のお姉さんに用紙を手渡され、うんうん唸りながらなんとかハンター文字を読み解いていく。昔よりは慣れたけど、やっぱり一瞬で読むのは難しい。

「名前、生年月日、闘技場経験の有無、格闘技歴、格闘スタイル……です、よね?」
「うん、多分合ってる……と思う。ていうか俺らの格闘スタイルって何……」
「……何なんでしょう」

悩むあたしと先輩の隣で、キルアが「格闘技経験10年って書いとけ、早めに上の階に行きたいからな」とゴンに耳打ちしている。
先輩と目を合わせてから、あたしと先輩も格闘技歴の項目に10と記しておいた。……こういうのも経歴詐称になるんだろうか。
格闘スタイルにはとりあえず2人とも、体術と記し、あたしだけ刀を使う旨も書いておいた。

受付を終えれば、早速とばかりに1階の闘技場へ案内される。
先輩は2056番、あたしは2057番の番号を割り振られたから、多分呼ばれるのはゴンとキルアよりも後だろうな。
まばらな観客を横目に見ながら、適当な場所に腰を下ろした。

「1973番、2055番の方、Eのリングへどうぞ」
「あ、俺だ。う〜緊張してきた」

立ち上がるゴンを、キルアがちょいちょいと手招く。そのままこっそりとまた何かを耳打ちして、にやりとキルアがあくどい笑みを浮かべた。
ゴンはきょとんとしているけれど、とりあえず頷いている。そうしてゴンがリングへと歩きだしたので、あたしは小さく手を振りながら声をかけた。

「頑張って」
「……うん、ありがとう」

なんとなくの仲直りはしたのだけど、やっぱりどこか気まずいままなんだよなあ。
曖昧な笑顔で去っていったゴンに肩をすくめて、小さな溜息が漏れ出た。

「ミズキさ、ゴンと喧嘩でもしたの?」
「喧嘩はしてない、…と思う」
「ふうん?」
「まあゴンも考えてるとこなんだろ。ミズキが謝るような事でもねーし、待ってればいんじゃね」
「だといいんですけどねえ……」

なんとも言えない表情の先輩に肩ぽんされて、嬉しいやら虚しいやら複雑な気持ちになる。
そうこうしている内にゴンはあっさりと対戦相手に勝利し、続いて呼ばれたキルアもさっくりと終わらせてしまった。

「2056番、2011番の方、Cのリングへ」
「1988番、2057番の方、Eのリングへ」

ほぼ同時に呼ばれたあたしと先輩も立ち上がり、リングへと向かう。
ゴンとキルアはあたし達を待ってくれているのか、観客席へと戻っていた。軽く手を振ってから、対戦相手と向かい合う。

対戦相手はへらへらと笑う、筋肉質のおじさんだった。チョビ髭がものすごく気になる。
ガタイは良いけれど身長はさほど高くないのか、顔を見るためにはわずかに視線を上向ける程度ですんだ。けど、チョビ髭が気になるからあんまり顔を見ない方がいいかもしれない。うん。

「制限時間3分以内に自らの力を発揮してください。……それでは、始め!」

審判の合図と同時に、おじさんが頭を下げる。へらへら笑いはそのままだけど、存外礼儀のある格闘家なんだろうか。
つられるようにあたしも軽く頭を下げ、た瞬間におじさんはあたしへと距離を詰めてきた。

「ーっ!?」

とっさに避けはしたけれど、こいつ、こいつまじか!人が挨拶返してやったのにそう来るのか!どこが礼儀ある格闘家だ、もうこいつなんかおじさん呼びしてやらねーからなこのチョビ髭野郎!
心の中で怒りを燃やしつつ、さてどう仕返してやろうかと思案する。
ちらりと向けたCのリングでは、先輩がポケットハンドしたままの姿勢で対戦相手を蹴り飛ばしていた。やだかっこいい。
先輩が蹴りでいくならあたしも蹴りにしーよお、と安直な考えで思案を終え、対戦相手のチョビ髭を見据える。
あんまり強く蹴りすぎたら殺しかねないから、手加減をして。

「よっ、と」

軽く跳び、膝蹴りをチョビ髭の左頬に当てる。一瞬酷い顔になって、チョビ髭はリングの外へと吹っ飛んでいった。ちょっと手加減が足りなかったか。

「……2057番、50階へ。頑張ってください」
「ありがとうございます」

ゴンとキルア、先輩と合流すれば、どうやら先輩も50階へ行くらしい。
80階と言われたのを自分から50階に訂正したのは、あたしが先輩に「ゴンとキルアは50階へ進む」と伝えていたからだろうか。それともファイトマネー目当てだろうか。
横目に盗み見れば、タカト先輩はいたずらっ子みたいな顔で小さく笑っていた。




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