タカト視点

「ゴン！！タカトも！あと、えーとクラピカ！リオレオ！」
「ついでか？」
「レオリオ！！」

執事室での、ゴトーさん曰く「ちょっとしたゲーム」は俺とゴンの勝ちで終わった。
ほぼ、それと同時にキルアがここにやって来て、ちょっと安堵。

だけどすぐに、疑問が浮かんだ。
ゴンとの再会を子供らしく喜んでいるキルアには悪いが、会話が一段落した瞬間を狙って問いかける。

「なあキルア、ミズキは？」
「、あー…なんか兄貴が、話あるって。すぐ行くとは言ってたけど」
「…そか」

イルミの奴。ミズキもミズキだろ、キルアと一緒に来ればいいのに。
少し、ちょっとだけ眉を寄せていたら、バンと控えめに、だけど慌てたようにキルアが入ってきた扉がまた開いた。

「ミズキ！」

ゴンが声を上げる。視線を向ければ、軽く肩を上下させているミズキが見えた。
いつもしていた、深緑色のシュシュが薄いピンクのものに変わっている。それに気が付いて、無意識に眉間に皺が寄った。すぐに気が付いて、戻したけど。

「ごめん、遅くなって…久しぶり、ゴン」

ミズキに駆け寄っていったゴンの頭を撫でながら、ミズキが微笑む。

「クラピカと、リオレオも久しぶり」
「だからレオリオだっての！！」
「はは、ごめんごめん」

キルアとは違って、多分わざとだろう発言をレオリオに向けて笑うミズキは、いつもと変わりなく思えた。
だけど、何でだろう。変わったシュシュがひっかかる。

「先輩も、久しぶりです」
「、ああ…久しぶり。元気そうだな」
「もちろんです」

ふわりと、嬉しそうにはにかんだ。一度、おさまったはずの胸の痛みがまた広がってくる。

「なあ、そのシュシュどしたの」
「あ、ほんとだ、ピンクになってる」
「…ミズキさん、ずっと深緑のものを使っていたのに」
「イメチェンか？」

俺の言葉に続いて、ゴン、クラピカ、レオリオがミズキのシュシュに目を向ける。
ミズキは困ったようにシュシュに軽く触れて、「あー…」と小さく声を漏らした。隣に立つキルアが、にんまりと楽しそうな笑みを浮かべてミズキのシュシュを指さす。

「これ、兄貴からミズキへのプレゼントなんだってよ。他にもあと２つあって、」
「うっわちょっキルア！」
「んだよ恥ずかしがんなって」

執事達のいる手前か手を出しはしなかったけれど、ミズキはキルアに詰め寄っていた。真っ赤な顔で。

「へえ、イルミにもらったんだ」

意図せず出たのは、いやに低い声だった。

さっきまで赤かったミズキの顔から色味が消えて、怖々とした表情で俺を見上げてくる。
そんな顔で見んなよと言いたかったが、それ以上言葉は出なかった。


何で、こんな苛ついてんだ。何でこんなムカつくんだ。
イルミはミズキのこと好きだっつってたし、プレゼントくらいやるだろ。そんなん、イルミの自由だ。俺がどうこう言える話じゃない。
それに対してミズキが喜ぼうがどうしようが、それだって、俺にはなんも言えないし。
仮にイルミとミズキがくっついたって、俺には関係、ないし。

「…？早く出発しよーぜ、ここいるとおふくろうるせーし」

無言ばっかが続く妙な気まずさを裂いたのは、キルアの言葉だった。
キルアとゴトーさん、ゴンが話してる中、俺は一足先に執事室を出る。

ちらとミズキの様子を窺えば、泣きそうな顔でシュシュをはずしていた。


――…


「タカト先輩、」
「……ん」

ゴン達とは少し距離をあけて、２人並ぶ。
何かを言おうとしたのか、俺の名前を呼んだミズキにどうにか相槌を打ったものの、ミズキはそこから先を口にはしなかった。
ほんの少しあとの残るおろされた髪が、ふわりと歩く度に揺れている。

「…ミズキ」
「っ、はい」
「髪おろしてんのも、いいと思う」
「、え…？」

歩きながら、ミズキの方は見ずに呟く。

ちょっと考えて、思いつきもしなかったけど、わかった。
俺、イルミに嫉妬してんだ。
ミズキの一番近くにいたのは、この世界では、俺のはずなのに。イルミのことで、ミズキが嬉しそうにしてるから。顔赤くするから。
ヒソカのこと嫌いなのも、ミズキと仲良いからなんだろうな。
はあ…ガキかよ、俺。

「あ、じゃ、じゃあ、時々…そのままに、してみます」
「うん」
「先輩、あのシュシュ、似合いませんでした？」
「…いや、似合ってたよ。ただ、」
「……ただ？」

横目でミズキを見やる。きょとんとした顔をしているミズキは本当に無防備で、こりゃダメだわと思った。
イルミやヒソカから、俺が守ってやんねーと、こいついつかまじで襲われんじゃねーのか。というかこの２０日間大丈夫だったのかよ。

「イルミからのってのが癪だっただけ」

独り言のように、漏らした言葉。

そのまま数歩進んで、ミズキが立ち止まっている事に気が付いた。
振り向いて、名前を呼ぶ。反応はない。
もう一度名前を呼びながら歩み寄れば、勢いよく両手で動きを制された。驚き混じりの声で、３度目、名前を呼ぶ。

「ちょ、っと今、整理してんで、先行っててください！」
「はあ？こんなとこにお前置いてってイルミにでも攫われたらどうすんだよ。ほら行くぞ」
「あああ待って待ってまじやめて！」

敬語とれてるし。
ミズキの顔を覆っている手をとって歩き出そうとした時、気付いた。

さっき、執事室で照れてた時の比じゃ無いくらい、ミズキの顔が真っ赤になってる。
茹で蛸ってよく喩えてるけど、それ以上だ。耳まで真っ赤にして、ちょっと涙目だった。
それを見てしまった俺まで、つられて少し顔が熱くなる。

「…行くぞ」
「う、…はい…」

ぱっと顔を背けて、ミズキの手を引いたまま歩き出した。
俺の後ろをついてくる、ミズキの手は熱出てんじゃねえかってくらい熱い。
きっと俺の手も熱いんだろう、そう思うとため息が出そうだった。

まじでガキじゃねーか、こんなん。





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