タカト編 ゼブロさんとシークアントさんの家での訓練を始めて、20日経った。 元から軽く押すだけで5の門まで開けた俺は置いといて、ゴンとクラピカは1の門を開き、レオリオに至っては2の門まで開くことが出来るようになった。 俺もゼブロさん達の家で世話になってる間はあまり重さの感じない重しをつけて生活していたけど、成長したのかどうかはわからない。元からマックスみたいなもんだし、不本意だけど。 6や7の門まで開くのはなんか嫌だったから、最初と変わらず5の門を開けて俺はゾルディックの敷地内に入った。 ミズキから最後に連絡があったのは3日前。 他愛の無いことだったけど、それが無性に嬉しく感じたのは何でだろう。考えてみても、いまいちピンとこない。 とりあえずキルアは無事らしいし、ミズキも元気らしいからいいんだけど。 「今日、そっち行く」とだけ書いたメールを送り、携帯をしまう。 森の中に見えるゾルディックの屋敷は、ひどく遠く思えた。 ――… 変わった髪型の女の子、…確かミズキが「敷地内に入って一番最初に会う執事服の女の子は、カナリアという子です。優しい子ですよ」と言ってたっけか。 その子、カナリアにゴンが向かっていくのを、痛々しいと思いつつも見守って。 もう見れたもんじゃない顔になってきたゴンの言動によって、本音を吐いたカナリアも見守って。そのまま、キキョウって言ってただろうか、キルアの母親に彼女が撃たれるのもただ見つめていた。 ミズキは今まで、こんな気持ちだったんだろうか。 気持ち的には助けたい、けどどうすべきか分からない。ここにいる奴らの気持ちを踏みにじりたくない。 やるせない、そんな感じだ。 キルアの母親と並んでいる子供には見覚えがある。 確か、ミズキを迎えに来てた子だ。黒い着物が綺麗な女の子、…じゃ無いんだっけか。微妙だと言ってたけれど。 キルアからの伝言を話し、少しの間をおいてキルアの母親は自己紹介を始めた。 「紹介が遅れましたね。私、キルアの母です。この子はカルト」 カナリアを気絶させた事に関してまったく意識してないんだろう、そう思わせる声音だった。気にも留めてない。 「キルアが俺達に会えないのは何でですか?」 「独房にいるからです」 独房、て。 もう今更思うのもアレだけど、本当に現実離れした世界だ。 自分の家に独房があるってどういうことだよ。 「キルは私を刺し、兄を刺し、家を飛び出しました。しかし反省し、自ら戻ってきました。今は自分の意志で独房に入ってます、ですからキルがいつそこから出てくるかは、私にはわかりません」 ゴンの顔が僅かに強ばる。 ミズキは、キルアは元気だと言ってたけど、本当に大丈夫なんだろうか。 イルミの事もあるし、他にも兄弟はいるらしいし…やっぱり不安が残る。 それに、ミズキってこんな母親がいるような場所で、まじで元気に過ごせてんの?俺だったらすげえストレス溜まりそうなんだけど。 ゆっくり、視線をキルアの母親へ向けた。カルトと呼ばれていた子から妙に敵意のこもったオーラを感じたが、気にしない事にする。 「あの、すみません。ミズキは今、どうしてるんですか?」 「……ああ、もしかしてあなたが、ミズキちゃんの言っていたタカトさんかしら」 「え、あ…はい」 ほんの少しびっくりした。ミズキ、俺のこと話してたんだ。 …何話したんだろう。 「彼女は今、イルミとお茶でもしている時間でしょう。…ところで、あなたとミズキちゃんの関係は?」 「、え?」 思わず聞き返してしまったが、言い直してはくれなかった。聞き取れていたから問題は無いんだけど、それでも、思考回路が一瞬でぐちゃぐちゃになる。 クラピカもなぜか興味深そうにこっちを眺めているのが横目に見えた。 俺と、ミズキの関係? そんなの、聞いてどうすんだ。 「……ただの、先輩と後輩、ですけど」 長い間があいてしまったような気がするが、なんとかそう答えた。 瞬間、ちくりと心臓の辺りに痛みが走る。 なら良いと、それだけの返答を受けたあとにまた痛んだ。 なんだこれ。 痛みの理由がわからなくて、胸元を押さえる。着ていたシャツに少し、皺が寄った。 よくわかんない、けど。 なんか、早くミズキに会いたい。 そうこうしてる内にキルアの母親は1人でパニクってさっさといなくなってしまった。 残っていたカルトがきつい眼差しを俺達に向けてから母親についていったのを見送り、息をつく。 胸の痛みは、少しだけおさまっていた。 「――私が…執事室まで案内するわ。そこなら屋敷に直接繋がる電話があるから、ゼノ様がお出になられれば、あるいは……」 これからどうするか決めあぐねていた俺達に、意識を取り戻したカナリアが告げた言葉。 確か、この後執事室に行って、コイントスみたいなゲームをしていたらキルアが来る、だったか。 先を知ってるとこの後どうなるのかわかんなくてびくびくする必要が無いから、その点だけは楽だな。試験内容とかだけなら試験中に知りたかったくらいだ。 そんなこと、ミズキには言えねーけど。 俺達が執事室とやらについたのは、もう日も暮れた頃だった。 …こんな豪華なのに本邸ですらないって、ゾルディック何なんだよ。 ← → 戻 |