「ミズキ、はいこれ」

昼過ぎ、部屋にやって来たイルミに渡されたのはそんなに大きくない紙袋だった。リボンがついてる。

「何これ?」
「いいから」

促されるまま、紙袋を破けないように開く。
紙袋の中には3つの、シュシュが入っていた。
目を丸くして、紙袋とイルミを交互に見やる。イルミはわかりにくいけど緊張しているらしい面持ちで、あたしを見つめていた。

中から1つ、桜模様のシュシュを取り出して手に載せる。

「これ……」
「プレゼント。それ、もうつけらんないでしょ」

今もあたしの髪を留めているシュシュをさして、イルミは呟く。
洗濯して汚れは落ちたけど、もうあちこちほつれて来ていた。確かに、もうつけられないだろうとは思っていたけど、捨てられないし他に髪留めも無いしでずっとつけていたそれ。
そっとほどいて、桜模様のシュシュに付け替える。

「ありがとう、イルミ。嬉しい」

左手でシュシュに触れながら、無意識に浮かんだ笑みをイルミに向けた。
無表情のまま赤くなるイルミの顔には少し、ほんの少し遠い目をしてしまったけれど、やっぱり嬉しい。すごく嬉しい。

「でも、どこでこのシュシュ買ったの?」

イルミが首を振る。うん?首を振るってどういうことだ。

「作らせた」
「はあ!?」

ちょっと声裏返った。

え、作らせた?誰に?っていうかやっぱりこの世界シュシュ無いのか、っていやそうじゃなくて。
なにこれつまりオーダーメイドってことですか…ゾルディック家こわ……。
嬉しいのは嬉しいんだけどこの髪の毛をくくるためだけの布にいくらかかってんのかと思うと震える。なんか頭がすごく重たく感じてきた。

「形は覚えてたから。どこにも無かったし、ミズキはそれ気に入ってるみたいだったし」
「いや、うん、気に入ってたけど…わざわざそんな、」
「俺がやりたかっただけだから」

あたしの髪を留めているシュシュに、イルミの手が触れる。

「うん、やっぱり似合ってる」

……赤くなんな顔。
くぐもった声でお礼を述べたあたしの顔を、覗き込むようにしてイルミが笑う。りんごみたい。そう言われて、更に顔が熱くなった。だからこういうのは慣れてないんだって…!

慌ててその場を取り繕うように、紙袋から残り2つのシュシュを取り出す。
あたしがずっと使っていたのとほぼ同じ、レースがついた深緑色のシュシュ。使っていたのは安い感じのレースだったけどこっちは装飾がガチだ…なんかやばい。どうやって縫ってんだこれ。
もう1つは白いシュシュに、金のリボンモチーフがついているものだった。可愛いけどこの金、本物じゃないよね?

今つけている桜模様のとあわせて、3つ。
3つとも綺麗でかわいい。そして触り心地からデザインやら、本当に高そうだ。

「…大事に、使わせてもらうね」
「うん、俺だと思って」
「それはちょっと」

冗談めかして笑う。
嬉しいのも、大事にしたいのも本当だ。

今までのシュシュは、大切にしまっておこう。

「ほんとにありがと。また何か、お返ししなきゃなあ」
「ミズキが俺のそばにずっといてくれれば、それでいいけど」

あくまで冗談っぽく、だけど多分、それは本音で。
困ったように眉尻を下げて笑みを浮かべながら、「それ以外でお願い」と、どうにか返した。

好きだと思ってもらえるのは、嬉しいんだけどなあ。

ちぇ、とイルミは小さく舌打ちのようなものをこぼして、あたしの結んでいる髪の毛を一束、手に取る。

「まあ半分冗談だし、いいけど。ミズキがこれつけてくれてたら、充分嬉しいし」
「そういうストレートなのが地味に照れるんだよなー…」
「いいこと聞いた」
「忘れろ頼むから」







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