「ここがゾルディック家…か」
「でかいですねぇ…」

一騒ぎ起きて、観光バスは既に帰った後だ。
ゴンとクラピカとレオリオの3人は今、守衛室でお茶をもらいつつゼブロさんと話をしている。

あたしと先輩は試しの門の前で呆然とゾルディック家を眺めて、ため息をついていた。
敷地ひっろ。家見えないわ。山しか見えねーわ。むしろ門がでかすぎて山すらほとんど見えない。

「これ、こっちが本物の入り口なんだろ?」
「はい。飛行船の中で話した通り、試しの門です。一番小さいので片側2トンありますよ」
「うげえ、こんなん開けられる奴いんのかよ…」
「多分先輩なら5、6くらいまで開けられると思いますけど」

そこまでいったら俺絶望しそうなんだけど、と先輩はなんとも言えない顔で門を見やった。
うん、まあ、あたしもそこまで自分が開けたらなんかもう何も言えなくなる。

話が終わったのか、ゴン達が守衛室から出てきた。
先頭はレオリオで、試しの門を開こうと押したり引いたり上げたりしている。
ここではびくともしていないのに、2週間で開けるようになるんだから、レオリオのポテンシャルはすごいと思う。体格もいいしなあ。

ゼブロさんが扉を開けて、話を続け。
ゴンが友達に会いに来ただけなのに試されるのはまっぴらだと言うところまできた時、あたしの携帯が鳴った。
誰かと思えば、イルミ。

「…イルミ?」
「です。ちょっと出てきます」

ゴン達から離れ、通話ボタンを押す。

『あ、ミズキ?もうついた?』
「着いたけど…そっちに行くのは3週間くらい後だよ」
『何で?ミズキなら試しの門くらい、開けられるでしょ』
「そうだけど付き合いってものが、」
『でももう迎えそっちに送っちゃったし、入ってきてよ。母さんも早くミズキに会いたいって俺が帰ってきてからずっとはしゃいでんだよ』

知らねーよっていうか迎え送ったってまじすか。そしてはしゃいでるキキョウさんがどういう意味ではしゃいでんのか想像したくない、怖い。

と、その時守衛室の電話が鳴った。
慌ててゼブロさんがとりに行き、なにかびっくりしている。

『とにかく早く来てよ』
「…わかった。あとでキルアにも会わせてね」
『全部終わったらね』

全部って何ですかね。
そう訊こうと思ったが、イルミは通話を切ってしまった。あんにゃろう。

通話終了と書いてある携帯をしまい、ため息を吐いていたらゼブロさんに声をかけられた。
どうやら、門の向こうにもうお迎えが来てしまっているらしい。
あたしだけ、入ってくるようにと。そういうお達しを受けて、あたしは肩をすくめた。

「えっ、ミズキ、行っちゃうの!?」

ゴンがゴトーさんと電話で言い争う展開は、あたしが電話中に終わったらしく。
ゼブロさんとの会話を聞いたゴンに、ぱしりと手を掴まれた。何で、と目が訴えている。

「イルミとは前からの知り合いで、家に行くことも約束してたんだよね。だからごめん、ゴン。キルア見つけたら連絡するから、みんなはゼブロさんのとこで修行して、ゆっくりおいで」

キルアは大丈夫だから、と付け加える。
きゅっとあたしの手を握りしめて、わかったと、ゴンは手を離した。
ゴンの頭をやんわりと撫でる。そして、先輩に顔を向けた。

「先輩、ちょっと先に行ってますね。ゴン達のことよろしくお願いします」
「……わかった。気を付けろよ」
「はい」

クラピカも、レオリオも、また後でと告げて、試しの門に手をかける。
ゆっくりとそれを押せば、4の扉まで開いた。一瞬真顔になって、しかもその向こうにどっからどう見てもカルトがいるのが見えて、思わず門から手を離す。
あたしが通ることなく、門はゆっくりと閉じた。

「何してんだお前は」
「いやだって先輩」

何でカルトちゃんなんです?ここ普通ゴトーさんとかじゃない?ゴトーさん今忙しいの?さっき電話応対してたから来れないの?
だからって何でカルトがあたしのお迎え係なの役不足にもほどがあるよ!

「ミズキさん…4の扉まで、ということは、キルアより…」
「あ、ちょっとクラピカそこには触れないで」

泣きそうになりながら再び門を開く。やっぱり4の扉まで開いて、しかもこれ軽く押してるから全力で押したらどうなんのといった感じだ。
門をくぐり抜け、きょとんとあたしを見つめるカルトに、はじめましてと引きつり気味の笑みで声をかけた。

ぱっと目をそらされた。やだなんかデジャヴ。

「イルミ兄さんに頼まれて、迎えに来たんだけど」
「あ、うん。ありがとうございますわざわざ…えっと、」
「カルト。そう呼んで」
「…じゃあ、カルト」

顔真っ赤にした。この子顔赤くした。
なんなの?ゾル家はみんなあたしに謎のキラキラを感じる病気にでもかかってんの?いやでもキルアはそうでもなかったよな…比較的早く懐いてはくれたと思うけど…。
トリップ特典こっわ、と遠い目をしながら、「こっち」とあたしの手を引いてくれるカルトに大人しくついていく。

「ミズキって、呼んでもいい?」
「もちろん」
「じゃあミズキは、イルミ兄さんのお嫁さんなの?」

思わず吹き出した。
イルミ諦めねえなほんとに。

「違うよ。あたしとイルミは仲良くしてるだけ」
「そうなの?でも兄さんは、俺の嫁が来るからって言ってたけど」
「あたしはそれに同意した覚えは無いから…」

ふうん、と興味なさそうに答えて、会話はとぎれた。
けれど手は繋がれたまま。カルトってスキンシップとか、あんまり好まないイメージあったんだけどなあ。

「じゃあ、ミズキをボクの物にしても、いいのかな」

風に乗って聞こえてきた、ぽつりと呟いた言葉は、耳に届かなかったことにする。
ゾル家やだもうほんとこわい。






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