「お疲れ、ミズキ」 「ありがとうございます…ていうか先輩、さっきなんかちょっと怒ってませんでしたか」 「いや、別に?」 ただお前はちょっと無防備すぎるよな、と。 あたしの頭を強めの力で押さえつけてきた先輩に、わあい先輩があたしに触れてるよ!なんて思えるわけもなく。 つーか先輩、なんかだんだんシャルに似てきてね?腹黒属性ついてきてね?勘弁してください。 いや腹黒い先輩もイイと思いますけどね!? そうこうしているうちにも試合は続いていて。 ヒソカ対ボドロ戦、キルア対ポックル戦は原作通りに終わった。 そして問題の、キルア対ギタラクル戦。 「久しぶりだね、キル」の言葉と同時にギタラクルはその姿をイルミへと戻していく。 何回見てもこの変身慣れねえわと思いつつ、ちょっとだけ先輩から距離をとった。 イルミはつらつらと、あたしにとってはデジャヴしか感じないセリフを述べていく。 そんなあたしですら憤りを感じる言葉。 レオリオやクラピカ、先輩が、憤らないわけがなくて。 距離とっておいて正解だったわ。先輩のオーラ超こわい。痛い。 キルアは冷や汗を浮かべて、それでも、自分の意志をはっきりと口にした。 「ゴンと…友達になりたい」「人殺しなんてうんざりだ」「普通にゴンと友達になって」「普通に生きたい」 そんな、普通の願望を。 「無理だね。お前に友達なんて出来っこないよ」 でもそれをばっさり切っちゃうイルミさんまじ歪みねえ。 先輩が怖いからもうそんくらいにしといてくれ。あたしもそろそろキレるぞ。 イルミは言葉を紡ぐ。キルアを傷付ける言葉。それを遮ったのはレオリオで、やっぱりレオリオはすごいなあと思った。 「ゴンと友達になりたいだと?寝ぼけんな!とっくにお前ら友達同士だろーがよ!」 レオリオがそう言ってくれたんだから、そろそろあたしも黙りをやめるべきだ。 小さくため息を吐いて、口を開く。 「イルミ」 「よし、ゴンを殺そ……なに、ミズキ」 器用に首だけをひねって、イルミがあたしの方へと顔を向けた。こっわあ。 「キルアに酷いことしないで。約束、やぶるならもう金輪際イルミとは喋らない」 「え」 「殺し屋に友達はいらない?うんまあいんじゃない、イルミはそれで。あたしともヒソカとも、イルミは友達じゃないもんね。だけどそれをキルアにまで強要しないでよ。キルアはイルミとは違う。そんくらいはわかってんでしょ?イルミは友達いなくても強いだろうけど、キルアは友達がいて、外に出て、あんたの庇護下にいないでいる方が強くなれるんだよ」 まっすぐに、イルミと目を合わせて。 「あたしが保証する」 なにを根拠にと思うだろう。思うだろうけど、それが事実なんだ。 今後どうなろうと、イルミの傍に居続けるより絶対。ゾルディック家に縛られたままより絶対。 キルアは強くなるから、イルミが今ここで、キルアを縛り付ける必要はない。 「…ミズキがそこまで言うなら、いいよ。キル、将来の姉に感謝しな」 「いや将来の姉にはなんねーって」 「この試験を受けることは許してやる。俺と戦って、最終試験をパスしてみな。出来る?出来ないよな。「勝ち目のない敵とは戦うな」って俺が口をすっぱくして教えたもんな?」 「イルミ!」 「わかったって。まったく、ミズキはわがままだなあ」 いい加減キレるぞこの野郎。 だいたい念わかんない子に対してオーラ向けんなよ。思わずあたしのオーラ広げてキルア守ったわ。 それに対してはイルミにすっげー睨まれたけど!あたし別に!悪くないし! 「…まい、った」 ぼそりと今にも消えそうな声で呟いたのは、キルアで。 力の抜けたような、申し訳なさそうな表情であたしを見るキルアに、肩の力が抜けた。悪い意味で。 結局なにも、出来なかったと。 まあキルアの頭の中にはイルミの針があるんだ。仕方ない。 「ごめん、さんきゅ、ミズキ」 いつも通りのキルアだったら、まずあたしとイルミの関係について訊いてくるだろうにね。 眉を寄せたあたしの手を、先輩が掴む。 小さく首を振られて、それはどういう意味?もうやめとけ、って? いくら先輩の言葉でも、ごめんなさい、それは聞けない。 「キルアとイルミのは、あいつらの家の問題だろ?ミズキがこれ以上…」 「そういうわけにもいかないんですよ」 あたしの精神衛生上、ですけど。 続くレオリオ対ボドロ戦。 試合開始直後に動いたのは、レオリオでもボドロさんでもなく。 キルアと、あたしだった。 ← → 戻 |