気を、失っていたらしい。

目を覚ましたら大きな瓦礫の上に寝転がっていた。
天井壊れてるし、雨漏りしまくりじゃないのかここ。今は雨降ってないからいいけど。
てかもう夜かー、星と月綺麗だなー。

視線を天井から周囲に向ける。
ゆっくりと体をおこしてみれば、右腕に包帯が巻かれていた。
おおご丁寧に応急処置まで…まだちょっと痛い気もするけどありがたい。

「てかタカト先輩はどこに…」

周りには誰もいなかった。
別の部屋?にいるのかな。てか尋問とか拷問とか受けてたらどうしよう。
先輩どうか無事でいてください…!

「あ、起きたの」
「うひゃあっ!?」

立ち上がってどこに向かおうかおろおろしてたら、急に背後からの声。
この声は…。

「君の仲間ならこっちだよ」
「あ、どうも…」

やっぱり、コルトピ。

あたしに背を向けて歩き出す彼のあとを慌てて追いかけ、一歩後ろの位置に落ち着いて歩き出す。
本物も髪長いんだな、でも思ったよりはさらさらっぽい。

コルトピはあたしのことを警戒してるのかしてないのかよくわからない感じで、ただ無言で歩き続けていた。
無言がつらい、空気重いよー。
でも話しかける勇気なんかないし…。
どうしたもんかと空気の重さに参っていたら、ぽつりとコルトピが何かを呟いた。

「君の名前は?」
「な…名前?」
「うん、名前。ないの?」

いったん立ち止まってこっちを振り返りながら、こてん、と首をかしげるコルトピ。かわいい。
にしても、ないの?って…。

「あるよ。ミズキって名前」
「ミズキ…僕はコルトピ」
「よろしく、ね?」
「うん、よろしく」

あ、なんだろうこの子。どうしようこの子。
かわいい…!
顔見えないけどなんかもう仕草とか態度が可愛い。抱きかかえたくなる。

今度はあたしの隣を歩きながら、コルトピは先輩達がいる方へ進みだした。

「ミズキは団長の知り合いなの?」
「…それはまあ、追々…」

今喋って、なんやかんやで先輩が酷い目に遭うのはやだしなあ。
本当のことを話すのは、完全に先輩の安全を確認してからじゃないと。
それと出来ればどうにかこうにかして、これからの生活の保障が欲しい。
なんかラッキーパンチ的なノリでここに住めるようになるとかそういう展開になんないかな、漫画の読み過ぎかな。

「ついた、ここだよ」

コルトピが重たそうな扉を、ギギ…と開いていく。
その向こうからは確かに強そうな気配がいくつも感じられて。

こえぇー…。無意識に、体が震えた。

いきなり襲われるかもしれない、先輩が人質にとられているかもしれない、そんな最悪の展開をいくつも考える。
どんな状況だったとしても、先輩だけは絶対に助けなきゃ。
覚悟を決めて扉の向こうに足を踏み出した。


…そんなあたしの目に映ったのは、予想外の景色だった。


「お前ほんとおもしれえな!」
「ほらもっと飲め!」
「いや俺未成年なんすけど…」
「んなもん関係ねえよ!飲め飲め!」
「あんまり飲ませちゃだめだよー」

旅団と一緒に飲み会やってる、先輩?え、ちょう仲良しじゃね?なにこれどゆこと?
てかあたしがぶっ倒れてる間に何してるんすか…。


しばらく扉の前で呆然としていたあたしに先輩達が気付いたのは、それからだいぶ後のことだった。





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