「っは、冗談…」

やっとの思いで吐きだせた言葉はそれだけ。
ヒソカはあたしを抱き締めたまま動かない。

なんだこれ。
…なんだこれ?

心臓めっちゃばくばく言ってる。顔がありえないくらい熱い。…照れてる?あたしが?あの変態ピエロに?
いやそりゃ照れもするよな…一応こんなんでもイケメンだもんな…。
というかあたしはどうすれば、いいんですか。

「と、とりあえず、離れてくれると…嬉しいんですが、ヒソカさん」

少しの間を置いて、予想外にもおとなしく離れてくれたヒソカはじいとあたしを見下ろしてくる。

うわ、この顔はマジだ。本気と書いてマジのやつだ。
さすがにその本気っぷりがわからない程あたしは子供ではなくて、でもヒソカの求める対応が出来るほど、大人でもなかった。

無言の空間が痛い。
空気が重い。どうすればいいのこれ。
無表情と言っていいくらいのヒソカは、あたしの返答を待っているように見える。
でも、あたしはヒソカの気持ちに応えることが出来るような思いも、言葉も、持ち合わせていない。

「あの、な…んで、そんなに」
「――ミズキが強いから」
「強さだけなら、先輩や…それにクロロだって、」
「それに…」
「そ、れに?」

ふわり、ヒソカの手があたしの頬を撫でた。
あたしが寝てた時と同じ。嗤いながら人を殺すようには思えないくらい、優しい手つき。

ずきんと、胸が痛んだ。


「ミズキは、弱いからね」

そう言って笑うヒソカの顔は、今まで見たことがない表情で。

「…どういう、」

自分で言うのもなんだけど、あたしは強い。この世界でも異常なほどに。
なのに、弱い、と。
イルミもヒソカと同じこと言ってたな、なんてぼんやり思い出しながら、眉を寄せる。

確かに旅団のみんなやヒソカ達に比べれば、精神力なんかは弱いっていうか、無いと思うけど。
…あたしは、弱いのだろうか。

「本当、見てて飽きないよ。ぐちゃぐちゃにして、壊したくなる」
「、…こええよ」

舌なめずりしながら言うなと。

ヒソカはあたしの頬から手を離すと、そっとあたしの手をとった。
そして膝をつき、まるで従者が主に跪く時のように。あたしの手の甲に唇を落とした。


…なんだこれ。

「でも、他の奴等に壊されるくらいなら、ボクがずっとミズキを守ってあげる」

…なに、これ。

「誰にも渡さない。ミズキを壊していいのは、ボクだけ」

……なんなの、こいつ。
あたしは、どうすればいいんですか。

「顔、真っ赤だよ」
「っヒソカが、変なこと言うからだろ」
「可愛いね」
「――…、」

何も言えない、何も言いたくない。


ヒソカに対してときめいちゃったとか、今掴んだままのあたしの手を離して欲しくないって思っちゃったとか、そんなこと。
気の迷いに決まってるし、っていうかほんともう、なんなのこれ!

だからヒソカは苦手なんだ!





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