腕を引っ張られて、腰に腕を回されて、うおこれはやべえとか思う間もなく。

ちゅ、とかいう軽い感じじゃなくて。
ちゅううう、って、ちょっともう勘弁してくださいなくらいの勢いで。
キスされた。
深いですヒソカさん。

「…満足?」

眉間に皺を寄せながら嫌っそうな顔で、唇を離したヒソカに問いかければこいつはきょとんと不思議そうな顔をした。
あたしが恥ずかしがるとかびっくりしてパンチ食らわすとかいうかわいらしい反応するかと思ったら勘違いだよこのやろう。びっくりはしたけど。

ヒソカは一瞬固まった後、にこりと笑みを浮かべる。

「…足りない」
「でもおかわりはねーよ」

またキスをしようと近づけてきた顔の、顎めがけて頭突き。これは痛い。ついでにあたしの頭も痛かった。硬でもしとけば良かった。
ぐふっと変な声出してうずくまるヒソカ。よほど痛かったんだろうなハハン!ざまあ!

「そんなことするミズキも可愛…か…かわいくない」
「おお…お前からまともな意見が出てきて安心したわ」
「ひどいなあ」

これでもまだあたしのこと可愛いとか言ってたらもう引くとかいうレベルじゃねえよ、病院行きを勧めるよ。
ヒソカは顎をさすりながら涙目で睨んでくる。全然、怖くない。

「にしても、あんたくらいの変態ならいきなり脱がしに来るくらいは覚悟してたんだけど」

それがまあ深いとは言えキスだけで終わったんだからそっちにびっくりだわ。
まあこんな木の上で脱がされるのもびびるけど。

「脱がして良かったのかい?」
「いや良くはねえよ」

お前にヤられる趣味はない、と付け加える。
ヒソカは不服そうに眉を寄せて、けれどあたしの腰に回していた腕をそっとおろした。

一歩後退してヒソカとの距離を置き、はあと息をつく。
どうせ本気じゃないんだろうからいいけど、この激しすぎるスキンシップどうにかなんないのかね?
さすがにあたしもイケメンにこんなことされて何にも思わないほど経験豊富じゃないんですよ。まったく。

「もうこんなことしないでよ?冗談じゃすまないんだから」
「…冗談?」
「ヒソカのことだから本気じゃないでしょ。面白がってあたしで遊ぶのも大概にし、て、」

瞬間、ヒソカの空気が変わった。

「、ヒソ…カ?」

思わず名前を呼ぶ。反応は、無い。
ただじっとあたしを見るヒソカの目は、ヒソカのモノじゃないようで、正直恐怖すら感じた。

なにこの違和感。
あたしなんか、地雷でも踏んだ?

もう一度、おそるおそる名前を呼びながらヒソカの顔を仰ぎ見る。
と、あたしが瞬きをしたその間に、ヒソカがあたしを抱き締めていた。
ぎゅう、と。きっと普通の人だったならそのまま潰れてしまったんじゃないかってくらいの強さで。

「ボクは本気だよ」
「…ヒソカ?」
「冗談なんかじゃない。ミズキが好きだからキスをしたんだ。ボクは君が好きなんだよ」
「ー…、っ」

その言葉に、息の仕方を、忘れた。





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