それは本当に、不意にだった。

「…あ」

唐突に脳内に浮かんだのは、漫画のワンシーン。
ヒソカがゴンに、残り4日あるから君なら動けるようになるだろうと、伝えるところ。

そして今日は、試験開始3日目。
つまり、それは今日起こるはずの、こと。

「、…うーん」

どうしよう、と唸り声をあげる。
先輩は今魚を捕りにちょっと遠くに行っている。…書き置きでも残してくか。
ゴンに会いたい。
会って何が出来るわけじゃないけど、会わなきゃいけない気がした。

タカト先輩に、島をうろついてくるので帰らなくても気にしないようにと、先輩も気をつけてくださいと書き残して、その場を立つ。
円を広げてゴンの居場所を確認し、あたしは走り出した。


++++


「久々の煙草…うまっ…たまんねー」

走りながら煙草に火を付け、煙を肺いっぱいに吸い込む。
吐きだした紫煙は風に煽られすぐに消えて。

先輩といると絶対吸えないし、3次試験中はほぼヒソカがいたから吸えなかったし、結局あたし1週間くらい禁煙してたんだよね。
煙草持ってきた意味無いじゃんっていう。

緊張とかで吸いまくるかと思って荷物になるの覚悟でカートン持ってきてんのに。

「!ヒソカの気配」

ぴたりと足を止めて、木の枝にぶらさがりながらヒソカの気配をたどる。
…あれ、後ろ?から、気配が近づいてくるような。

「ミズキ、煙草ダメ、絶対」
「うひっ」

あたしがぶら下がっている枝の上に現れたヒソカに、口にくわえていた煙草の先をトランプで切られた。さらば煙草…。
口元に残ったフィルターをぺっと吐きだして、枝に飛び乗る。

「何すんの」
「煙草を吸ってるミズキの気配がしたからね」
「どんな気配だよ」

ため息を吐くあたしに、それにしても久しぶりだねなんて言いながらぎゅうと抱きついてくるヒソカからは、血臭。くせえ。
相変わらず好血蝶がひらひら舞ってるところを見ると怪我は治っていないらしい。意外と自己治癒力はないのか。

「プレートは集まったの?」
「まあね」
「あそ。じゃあこの後はどうすんの」
「んー…ミズキと過ごそうかな」
「勘弁して」

うげえと心底嫌がりながら舌を出してやれば、ヒソカは残念、とさして残念がってない顔で呟いた。
それを横目に見ながら、中指の先にぽうと火を浮かばせる。

空がだんだんと暗くなってくる中で、その炎はやけに明るく見えた。

「…それは?」
「あたしの念能力。肩、まだ怪我してんでしょ」
「荒療治なら遠慮するよ」
「いいから出せよ」

にぃっこり、満面の笑みを浮かべる。
わずかに口元を引き攣らせながら、ヒソカが肩を出した。

覆うように、炎の灯った指先で傷をなぞる。

「はい終わり」

完治とは言わないまでも、傷はもうなくなったヒソカの肩。
数日すれば怪我してたなんてわからないくらいにはなるだろう。もうちょっと念を込めれば、治癒度を上げられるかもしれない。

すごいね、と感嘆のため息をつくヒソカの表情にちょっとした不安を感じながら、じゃああたし行くとこあるからとその場を去ろうとする。
けど。
そんなあたしの腕はがっしりとホールドされてしまった。ちくしょう。

「ミズキはますます美味しそうになるね…」
「…そりゃどーも」

ぺろりと舌なめずりをするヒソカ。こええ。
命と貞操の危機を感じる。

「今すぐ、食べちゃいたいよ」


…貞操の危機を感じる!





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