タカト編/主不在



ガタイの良い男が語ったのは、この場での俺たちがやるべきこと、戦い方。
3勝すれば勝ちなのだから、まあ簡単と言えばそうなんだろう。相手によるかもしれないけど。
でもまあ、俺はフィンクスやフェイにお墨付きをもらったことだし、そうそう簡単に負けるわけにはいかない。

この世界に来て不自然なまでに上がった持久力、脚力、瞬発力、その他諸々。
それを有効活用しないと、どうやらこの世界は日本に比べてかなり危険らしい。

試験を受けるか否か、結果はもちろん満場一致の○。
説明をした男が一番手を名乗り出たから、じゃあ俺が行くわと軽く手を挙げた。

「大丈夫なのかよ、タカト。言っちゃ悪いけどおまえ戦えるよーに見えないんだけど」
「大丈夫だろ、俺キルアよりは強いだろうし」
「はあ?ふざけんなよ」
「まあまあキルア、タカトが大丈夫って言ってるんだし…」

キルアはキルアで、ゴンとは別ベクトルで年相応だなと笑いながら、足場から出てきた細い通路を通ってリングへと向かう。
近くで見ると男は思ったよりも大きくて、俺もこんな身長欲しいなあなんてため息を吐いた。

「勝負の方法を決めようか。俺はデスマッチを提案する!」
「ドラマかなんかかよ…」

この世界は本当に、俺のいた世界とは価値観とかが違う。
デスマッチしようぜ!って、そんな野球しようぜみたいなノリで言わんで欲しい。

「一方が負けを認めるか死ぬまで戦うんだ」

そう言う男の気迫、オーラはなるほど自信たっぷりな分だけあってそこそこ強そうだった。
でも、多分俺よりは弱い。

「うん、まあ、わかった」

いいよ。と、軽く構える。
男は勝負!と叫びながら俺に向かって一直線に突進してきた。


俺のオーラは操作系に属するらしい。
同じ操作系のシャルにどういうものかを聞きはしたけど、それでも俺はどういう能力を作ればいいのかわからなかった。
シャルみたいに、携帯とか、それなりに執着のある物体があればまだ良かったのかもしれないけど、俺が元の世界にいたときから持ってたものなんて、音楽プレイヤーと財布とレンタルCDくらいのもんだ。
学校帰りだったら、まだ本とかテニスラケットがあったかもしれないけど。

だから俺には、これといった能力が無い。
その分、フィンクスとフェイに基礎能力の底上げを手伝ってもらったが。

「あんま、暴力的なことは好きじゃないんだけどな」

スポーツとしての空手や柔道は別だ。
この男や、旅団のみんなみたく、相手に害を成すための力は好ましいものじゃない。

男の打撃をひょいひょいと軽く避けながらため息をつく。
そういえばフィンクスに、お前はやる気がねえからダメなんだよと言われたことがあったっけな。
本気になれば、ここにいる誰よりも強いだろうにと呆れ顔で鼻を鳴らしたフィンクスの言葉を思い出しながら、ちらとゴン達に視線を向けた。

「…しゃーないか」

ここで終わったら、きっと3次試験も通過するだろうミズキに、先輩としての示しがつかないし。

喉を狙って拳を突きだした男の腕をいなし、がら空きの腹部に肘をいれる。
うなり声をあげて一瞬固まった男の背後に回って、少し多めにオーラをためた右足でその背中を蹴り飛ばした。

「キルア、見えた?」

倒れた男にはまだ意識がある。けど、体は動かないらしく死にかけの虫みたいにぴくぴくしていた。
それをちらりと見下ろしてから唖然としてるキルアに声をかける。
キルアは悔しそうに、首を横に振った。

「そういうこと。んで、おっさん?続ける?」
「ぐっ…」
「続けるなら、まあ…」

ふわりと、悪意のこめたオーラを男の顔すれすれまで広げる。
男は顔を真っ青にして、ぴくぴくしていたのがガクガクに変わった。

「ま、まいった!俺の負けだ」
「うい了解」

はい俺の勝ちー、とオーラを引っ込めてゴン達のところに戻る。
4人ともが唖然としていて、キルアに至ってはわずかに冷や汗を流していた。

クラピカが複雑そうな表情で、口を開く。

「タカトの気配は…どこかミズキさんと似ているな」

それがどういう意味なのかは、訊くことが出来なかった。





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