先輩の「とりあえず下ってみるかー」の言葉で、あたしと先輩は今すごく道の悪い森の中を進んでいる。
岩がごつごつしてるし草は生えまくりだし木の根っこがトラップみたいになってたりするし。
何回こけそうになったことか…。

「ミズキって部活の時も思ったけどさ」
「はい…?」
「鈍くさいよな」
「!?」

部活の時から思われてたのか…いや鈍くさいのはよく言われるし他の先輩からも怒られてるけどさ…!
あっやばい泣きそう。
この人ハッキリ言うタイプだからなあ…。

「転けても助けねーぞー」
「そこは助けてくださいよ…」

とっとと軽快に歩いていく先輩は身軽だなあってため息をつきながら後を追いかけていく。
もうだいぶ歩いてるのに森から抜ける気配はない。
まだ太陽はだいぶ高いから大丈夫だと思うけど、このまま夜になったらどうしよう…変な動物とか出てこなきゃいいけど。

って、そんなことを考えたのがいけなかったのか。


「、?なあ、今なんか聞こえなかった?」
「え、あたしは何も…」

答えた瞬間、タカト先輩の背後から、ぬっと現れたのは。

「なんっ…!?」

雄叫びをあげている、熊とも犬ともつかない見た目の、巨大な生き物で。
それはギロリと先輩に視線を向けると、その大きな手を、鋭い爪の生えた手を、先輩の頭上で振りかぶった。

「っ危ない!」
「うおあっ」

間一髪、先輩を突き飛ばす。
鋭い爪があたしの右腕をえぐったけど、その痛みを感じる余裕すらない。
服の袖が破れて、ぽたぽたと血が垂れる。
自分で思ったよりも傷は深いみたいで、でもやっぱり痛みは感じないからそのままの勢いで先輩と共に走り出した。

「ミズキ、腕…っ!」
「だいじょぶ、です」
「どこが…」
「大丈夫ですから!今は走って!」
「ー…っ、」

嫌な予感がとまらない。
あんな生き物、どこの世界にいるっていうの。
ちらりと見えたしっぽは爬虫類っぽかった。熊の図体で犬の顔で爬虫類のしっぽ?なにそれどんなキメラよ、聞いたことがない。
…漫画の中でしか!

極限状態だからか、変に冴えてくる脳内が導き出した答えは、今あたし達に降りかかっている出来事以上に非現実的で。
そんなの小説や漫画の中でだけの出来事なのに、空想するだけだからこそ楽しいのに、現実に起こるわけがないのに。


そんなわけない、これは夢なんだ、きっと白昼夢でも見てるんだ。
頭の中で何度もそう繰り返すのに、ずきずきと痛み出した腕がこれは現実だと訴えてくる。
はあはあと息も上がり始めて、腕から流れ続ける血は止まらなくて。
あたしの前を走る先輩が、何度もこっちを心配そうなまなざしで振り返る。

「ミズキ…っ」
「先輩、前!」

ラッキー、なのかな。

森を抜けることができた。
その先には、廃墟だらけの街があった。





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