流血表現注意



血が付いた刀をひゅんと振って血を払う。
普通の刀なら人を斬ると血や油で切れ味がだんだん悪くなっていくもんだけど、周をしているからか刀が良いものだからか、この刀の切れ味はまだまだ良好だった。

「今、何人くらい倒したかな…」

数えるのも億劫になってくるほど、最初に囚人達を見かけてから、行く先進む先で囚人達は私目掛けて殺気と武器を放ってきた。
念を使える人も何人かいたけど、所詮捕まった人間だからかたいしたレベルではなく。

「あの人は、結構強かったな」

裾が焦げてしまったスカートと、もう治りかけてはいるものの大きな火傷のあとが残っている右足を見下ろしながら、はあとため息をついた。


++++


「強えなあ、おまえ」

そう言った男の腹部に突き刺さる刀。
右足が熱くて痛くて、じわりと涙が滲んだ目で男を見下ろす。

「あんた、その腕」
「ああ、よくわかったなあ。おまえと同じ義手だよ」

男の両腕はあたしの左腕と同じモノだった。
ぽう、と炎を灯す男の手を眺めて、不意にあのキャラを思い出す。
ハンターとは別の漫画に出てくる、憤怒の炎を扱う男、ザンザスを。

「俺は昔火事で大火傷を負ってなあ、両腕は切り落とすしかなかったんだあ。腕のない人間が生きていられるような場所にはいなかったんでなあ、もう死ぬしかねえって思ってたときに、会ったんだよ。バルデロと」

もう死ぬと思っているからなのか、男が語り出した男の半生を、あたしはじっと聞き入っていた。
この男の話に、あたしの念を強くするための鍵があるかもしれないから。

「バルデロは俺に腕をくれた。そして俺はその街を出て、生きるため、強くなるためにこの力を得たんだあ。炎のイメージは簡単だったなあ、なんてたって燃やされたことがあるんだからよ」

男の手のひらに浮かぶ炎が、だんだん小さくなっていって…消えた。
それと同時に、刺したままだった刀を男の腹部から引き抜く。

ずりゅ、と肉がねじれる音がした。

「おまえ、名前はあ?」
「…ミズキ」
「俺はなあ、バルドっていうんだあ」
「バルデロさんと似てますね」
「当たり前だろ、バルデロにちなんで名付けたんだからなあ」

男…バルドは、何でか分からないけど嬉しそうに笑った。

「生きて、バルデロに言ってやりたかったなあ。てめえの腕は最高だって」

…まず、なんでこの男は死ぬつもりなんだ。
あたしは致命傷を与えていないはずだし、今まで倒した他の男達も気を失わせているだけで殺してはいない。
まあ、ほっといたら失血死くらいはするかもしれないけど。

呆れ混じりのため息をはいて、男の横に膝をついた。
さっき受けた炎の熱さ、火傷の痛み。
それらを思い出しながら、オーラを練る。

「おまえ…その炎は、なんだあ?」

トリップ特典って、本当にチートだなあと、思った。

「傷を癒す炎、ですよ」

真っ赤な炎が、私の掌に灯る。
その炎で男の体を包んだ。

ちらりと脳裏に浮かぶ、矛盾。燃やす、細胞を殺す為の炎が、傷を再生させ、癒す。
この能力は何だろう。
自分でイメージさせたはずなのに、自然と、まるで当然のように生まれた念能力が、不思議に思えた。


一番大きな腹部の傷をのぞいて、綺麗に治った男の傷。
きょろきょろと眺めながら、バルドとやらはくつくつと笑った。

「変わった人間だなあ、おまえは」
「あなたもね」

おそろいのよしみで祈ってやるよ、おまえの合格をなあ。

バルドは、バルデロさんの義手を見せるようにしてあたしを見送った。
それに軽い会釈で応え、あたしは開いた道を進んでいく。

その先の道が楽勝だったのは、言うまでもない。






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