「あー、やばいなあ」
「どうした?」

あたしの独り言に振り向いてまで答えてくれるキルアが可愛くて、思わず笑顔になる。
けど、やっぱり足下の違和感にあたしはまたしかめっ面になった。

「ブーツから水が染みてきた」
「…のんきだな、ミズキって」
「ええー」
「そんなブーツ履いてるからだろ」

やっぱりムートンは失敗だったか。そこまでじゃないんだけど若干染みてくるんだよなあ。ううう気になる。
キルアからの冷たいまなざしにちょっとだけ泣きそうになったけど、我慢。
後で革のブーツに履き替えよう、そうしよう。

あたしがそんなことで悩んでいる間に後方集団がまるっとはぐれてしまったらしく。
じゃあそろそろかと耳をすませていたら、レオリオの叫び声がしっかりと聞こえた。
あーあ、ヒソカが馬鹿始めたか。

「レオリオ!」
「っゴン!」

それが聞こえた瞬間に逆方向へ走り出したゴンと、それを止めるようにゴンの名前を呼ぶキルア。
けどそのまま後ろへ向かうゴンは止まらなくて、キルアは苦虫を噛み潰したような顔でそれを見送っていた。

行かなくても大丈夫なことはわかってるんだけど、あたしの足も勝手にゴンを追いかけようと動いていた。完全に無意識だった。
それを止めたのは、先輩の手で。

「どうせあの変態野郎がなんか始めたんだろ?ミズキまで行く必要ない」
「…、」
「やめとけ、ミズキまで戻れなくなんぞ」

いったん立ち止まって、先輩とキルアの2人にゴンを追いかけることを止められる。
わかってるん、だけどね。大丈夫だって。

でもゴンが可愛くて、良い子だから。
あの場にクラピカがいるから。
つい、心配になってしまって。

先輩の手から逃れようと力を入れていた腕から、ふっと力を抜いた。
それにあわせて、先輩も力を抜く。

「…ごめんなさい、タカト先輩。キルアも。先に進もう」
「おう」

ニカッと笑った先輩と、しょーがねーなとでも言いたげな表情のキルアが先に走り出して、あたしもその後を追いかけた。
ちらと後ろを向いて、ゴン達が怪我をしないように願いながら。


そして、あたし達3人は二次試験会場に辿り着いた。
まだ中には入れないから、外で一息つく。

あー次料理かー。寿司は作れないな。
おとなしく落ちて原作にあわせるとしよう。

「つーかさ、タカトとミズキってどういう関係?付き合ってんの?」
「ばっ違っ、何言ってんのキルアはおませさんだなあ!」
「…わかりやしー」

先輩がちょっと離れたトコにいるからかそんなことを言ってくるキルアの頭を強めに撫でる。撫でるって言うか押さえつける。
いてててて!って慌てた後に謝ってきたからとりあえず手は離してあげたけど、まったくこの子はなんてことを言うんだ!先輩に聞かれた上でハッキリ否定されたらあたしが可哀想だろ!

「別に先輩はそういうのじゃないよ。それよりあれゴン達じゃない?行かなくていーの、キルア」
「あ、ホントだ。んじゃ俺行ってくる」

タイミング良く現れてくれてありがとうゴン、そしておかえり!無事で何よりだよ!

改めてキルアの質問を思い出しながら全力でため息をついていたら、あたしと先輩を見つけたらしいゴンに呼ばれた。
それに反応してすぐにそっちに向かい出す先輩とは正反対に、あたしはすぐに足を動かすことが出来ない。
だってクラピカいるんだよ、もし覚えられてなかったらとか考えたりしたらさー…。てゆか覚えられてる場合のが年齢のこととかで面倒なんだけど。

「ミズキー?」
「あ、い、今行く!」

今行くっつっちゃったよ。

仕方ないから腹をくくってゴン達の元に歩き出す。
遠目に見てみる感じ先輩はちょうどクラピカとレオリオと自己紹介をしあったところみたいで。
はあと息を吐いて、歩くスピードを速めた。

「クラピカ、レオリオ、この人がミズキだよ!」
「ど、どうも」

辿り着いてみればゴンにすばらしいプリティースマイルで紹介された。
クラピカの唖然としてる顔に苦笑するしかない。レオリオはあっさり自己紹介して握手求めてくれたけど。

「ミズキって、ほ、本当にミズキ…お姉、さん?」
「あ、あー…うん。久しぶり、クラピカ。元気そうで何より」
「ミズキ…ミズキお姉さん…っ!」

あたしの両肩をがっしり掴んで震えてるクラピカは、あたしがあの時のミズキだと確信を持ったのか、ぎゅうと抱きついてきた。
か、かわいい、けど、先輩の前なんだよねあたしはどうすれば!

「でも、お姉さん…変わって無くないか?」
「うんちょっと…いろいろあってね」

冷静に戻ったらしいクラピカに聞かれて、あははとぽりぽり頬をかきながら答える。
けどクラピカは、そうか…だけで済ませてくれて、また会えて本当に嬉しいだなんてあの時みたいに綺麗に微笑んでくれるもんだから。
あたしもまた、あの時みたいにくしゃりとクラピカの頭を撫でたのだった。





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