「ここ、が…会場?」
「そうですよ」

大食い選手権でもすんのかよ、と呟いた先輩と、あたしの目の前には定食屋。
ここがあの試験会場かあなんて感慨にふけるあたしとは正反対に、先輩はひどく不安そうに眉をひそめている。

「まあ…入るか」

ため息を吐いて、先輩は覚悟を決めたらしい。
歩き出した先輩の後ろをたたっと追いかけて、あたし達は定食屋の中に入った。

あらかじめシャルから聞いていた、というかまああたしは最初から知ってたんだけど、合い言葉を店主へ伝える。
ぴく、と反応した店主の言葉で店員さんに案内してもらった部屋に入ると、机の上でステーキがじゅうじゅうと美味しそうな匂いをあげながら焼けていた。

「あんな合い言葉で、一般人が間違って注文しちゃったらどうすんだよ…」
「はは…確かにそうですね」

ステーキ定食、弱火でじっくり。
頼む可能性がなくもないメニューだよねえ。

にしても、これからこの部屋エレベーターみたいにおりてくはずなんだけど…動かないなあ。
何でだろうとステーキを口に運びながら悩んでいたら、ぱたん、と部屋の扉が開いた。

「あ、ミズキ」
「ん?」
「ひっ?!うわ、」

そこにいたのは、イルミ…というかギタラクル。

いつの間にか店員さんが持ってきていたらしく3つに増えたステーキ定食を食べるために席に着いたイルミが、タカト先輩に向かって「そんなにびびらなくても良くない?」と小首をかしげた。その顔でその仕草は、気持ち悪い。

「え、あ、もしかして、イルミ…か?」
「うん。タカトもミズキも無事に辿り着いてたんだね」
「そりゃま、一応ね」
「さすが俺の嫁になる女」
「ならねーよ」

俺の嫁ってなんか二次元のキャラに言うみたいな言い方しないでくれ。そして先輩の前でそういうこと言わないでくれ…。

この世界に来て2年くらい経つけどあたしは相変わらず先輩が好きである。
そしてフラグはまったく立ってくれない。ひどい世の中だ。

「で、何でそんな変装…してんだ?つーかそれは変装っていうレベルなのか?」
「念でいじったからね。この試験に俺の弟が来てるみたいなんだ。だからバレないように」
「弟?」
「キルアっていうんだ。2人も見かけたら家に帰るよう言っといてよ。特にミズキは将来自分の弟になるんだし」
「いやならねーって」

イルミは未だにあたしを嫁にすることを諦める気配がない。そのうち既成事実とか作られそうでこええよ…こいつと2人きりになるのは絶対にやめておこう。

ん、で。
やっぱりキルアは脱走して試験受けに来たのか。まあそりゃそうだよな。
あたしとしてはキルアともゴンとも仲良くなりたい。レオリオはまあ…うん。クラピカは、…あたしのことを覚えてるのかな。というかあたしがクルタを守った世界がパラレルワールドとかじゃなきゃいいけど。
そうだったとしたらこの左腕が残念すぎる。いやパラレルワールドのクラピカが幸せだってことももちろん大事だが。

「お、ついたかな」

チーン、という音と共に地下100階をしめしたパネルを見て、開くドアに招かれるようにあたし達はエレベーターを降りた。

ここが、ハンター試験の、会場。





×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -