あたしの隣にちょこん、と座ったクラピカに差し出された木の実を受け取り、少しかじる。
甘くて、美味しい。リンゴみたいな味だけど、ちょっと触感や酸味が違う。でも、これはこれで良い味だ。

「ミズキお姉さんがいなかったら、クルタ族は全滅してもおかしくなかったって、父さんが言っていた」
「…ん」

クラピカが、ぽつりぽつりと話し出す。

「私は森で木の実をとっていた。だから無事だったけど、エーリスは途中でお母さんに頼まれていた用事を忘れてたって、戻ったんだ」

ああ、だからエーリスがあの場に帰ってきたのか。
そう思い出しながら、包帯の巻かれた左腕に視線を落とす。

「きっと、ミズキお姉さんがいなかったら、私は1人ぼっちになってたと、思う」

そう、それが原作通りの世界だから。
でもあたしは、クラピカにそんな悲しい運命を負ってもらいたくなかった。旅団に死んで貰いたくなかった。
麻雀の念がきっかけでここに来ることが出来たから、クルタを守ることに決めたんだ。

「ありがとう、ミズキお姉さん。私の家族を、クルタのみんなを、守ってくれて」
「…でも」
「今までも私たちが襲われることはあったんだ。だから死んでしまった人達がいるのはすごく悲しいけど、他のみんなが生き残ることが出来た奇跡を、今はみんなで喜びたい」
「、そう…だね」

しゃくり、クラピカも手に持っていたリンゴをかじる。
そしてにっこりと、あたしに向かって微笑んだ。

「美味しいね」
「うん…とっても、美味しい」

よく理由のわからない涙が溢れ出して、ぐすぐすと子供みたいに泣き出してしまったあたしに慌てたクラピカが、エーリスや他の大人達を呼びに行っちゃって焦ったのは、これからほんの少し後の話。


そして、あたしは。


++++


「いっ、てえ!」

また、木から落ちた。
どすんと激しく打った腰に唸りながら震えていたら、頭上から「だ、大丈夫か…?」と心配そうな声がふってくる。
この気配、は。

「タカト…せんぱ、い?」
「や、やっぱり、ミズキ…?」

あたしも先輩も、目をまん丸に見開いて。

戻ってきたんだ、あたし、元の時間に。
それがわかってほっと息をはいた、ら。

「ミズキ…っ」
「うひゃ、わ、せ、へっ!?」

タカト先輩に、ぎゅううと、抱きしめられた。
ちょっま、何で、えええ!

「お前、1ヶ月もいなくて、クロロ達もすげえ焦ってて、だから、良かった…!」
「い、1ヶ月も」

おいおいまじかよクルタ族んとこいたのは1週間ちょっとだけだぞ…。

先輩は、体を離してあたしを見つめる。
ふわりと微笑まれ、耳の辺りが熱くなった。

「おかえり、ミズキ」
「あ、た、ただいま…です」






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