「っく…!」 「…姉さ、ミズキ姉さん!」 「大丈夫だ、から。エーリス」 気を失ったノブナガとフランクリン、パクを入り口のところに寝かせ、他の団員達の元へ急ぐ。 その間エーリスはあたしの首に抱きつかせておいて、あたしは走り続けた。 失った左手の痛みに、耐えながら。 結果としてエーリスを守ることは出来た。 けれどノブナガの刀によって、あたしの左手の二の腕から下はすっぱりと切られてしまい、しかも切れて飛んでった方の腕はフランクリンの念弾でぐちゃぐちゃの肉塊にかえられてしまったもんだから堪らない。 腕さえ残ってればなんとかなったものを…! 仕方ないから腕周りのオーラを強化して出血だけは止めている。 元の世界戻ったら、義手でも作ってもらうかな…。 「だって、姉さ、腕が…っ!」 「大丈夫だからエーリス、泣かないで」 ひっくえっぐと泣きやむ気配のないエーリスの頭を右手でぐしゃっと撫でる。 走っている途中に見つけたフィンクスとシャルも、ちょっとだけ苦戦したけど気を失わせることができた。 あとは、ウボォーとマチとフェイタンとクロロだけ。 「…ごめんね、エーリス」 「なん、で…ひっく、ミズキ姉さんが、謝るの」 「あなた達を守りに来たのに、守れなかった」 村の中のあちこちには、既に眼のない死体がいくつか転がっている。 この中には、エーリスやクラピカの両親がいるかもしれない。あたしに優しくしてくれたおじさんやおばさんがいるかもしれない。 こうならない為にこの一週間ここで過ごしたのに、あたしは何の為にここに来たんだか。 「そんなことないっ!!」 「うわっ!?」 エーリスが、耳元で叫んだ。び、びっくりした。 「ミズキ姉さんは俺を守ってくれただろ!それにさっきの眉無しや金髪からもおっちゃんや母さんを守ってくれた!そりゃ確かに、助けらんなかった人もいるけど」 「エー…リス」 「ミズキ姉さんは正義のヒーローじゃないんだもん、ただの優しくて一緒にいると楽しい、俺の大好きな姉ちゃんだ。だから、そんな悲しい顔、しないで」 「、エーリス…」 走りながら、ぎゅうとエーリスを抱きしめて、滲みかけた涙をぬぐった。 ごめん、助けられなかった人たち、本当にごめんなさい。 でももう、誰も傷つけさせないから。 「ありがと、エーリス」 女の人を殺す直前だったらしいフェイタンの首に手刀を落として、その近くで男性と殴り合いをしていたウボォーの鳩尾に拳をめり込ませる。 ほぼ同時に2人の気を失わせ、次の瞬間にあたしめがけて飛んできた念糸を、刀状に変化させたオーラで斬りつけた。 「あんた、強いね」 「そういうあなたもね」 エーリスを女の人と男性にまかせ、マチの懐に入り込むよう走り出す。 一瞬で自分のすぐ目の前にやってきたあたしに驚いたのか、マチはすぐに身を引いたけどそれすらもあたしにとってはちょーっと遅くて。 「ごめん、ちょっと寝ててね」 がら空きの鳩尾を一発殴り、気を失ったマチを抱きかかえた。 あとは、クロロ…あのハゲだけ。 少し走っていった場所でクロロは村長と戦っていた。えええ村長強いな。 なんか表情とかキャラがネテロ会長とかゼノさんを彷彿とさせる人だと思ってたけど、やっぱりそっち系なの? 数分、唖然と2人の戦闘を眺めてしまった。 「って、見入ってる場合じゃない」 はっと我に返って、村長をかばうようにクロロと村長の間に立つ。 盗賊の極意を手にしていたクロロは、マチを抱えて来たあたしを見て、ほうと喉を鳴らした。余裕そうですねうっぜえ。 「他の団員も全員気絶してる、あとはあんただけ」 「それは、すごいな」 「ここはおとなしく引いて、帰ってくれない?んで金輪際クルタに近づかないで」 じぃと睨み付けるあたしに、クロロはまたわずかに笑みを深める。 そのとき、村長が口を開いた。 「もう奪われた者の眼は持って行っても構わん…今までもこういうことは幾度となくあったからな。ここで引くというなら我らも報復はせん、主はどうするんじゃ」 「村長…」 あたしとしては、奪われた眼も取り返すつもりだったんだけど…。 …でも、村長がそう言うなら。 「わかった、身を引こう」 俺の仲間も返して欲しいしな。 クロロはそう言って、盗賊の極意をふっと消した。 少しの間逡巡して、クロロにマチを渡す。 「お前…名は?」 「…、…アレン」 本名を名乗るとあたしがトリップしてきたときになんか変なことになりそうだったから、適当に浮かんだ名前を言っておいた。 「アレン、か。覚えておこう」 そして、クルタ族の集落から幻影旅団は姿を消し。 被害は十数人の死者と数人の怪我人のみですんだ。それでも十数人の人を守りきれなかったことを悔やんで、村にいることが出来なかったあたしの前に現れたのは。 赤い木の実を2つ持った、クラピカだった。 ← → 戻 |