その人は、1週間もせずにこの場所に馴染んだ。
私とエーリスが森で木の実を拾っていたら、木の上から落ちてきた人。
とても優しい笑顔で、私たちの頭を撫でてくれた人。

村長達は最初怪しんでいたけど、それも次第に落ち着いていった。
それはきっと、彼女が警戒する必要もないくらい、楽しくて、優しい人だったからだと思う。

その人…ミズキお姉さんが。

「ミズキ姉さん!」
「う、わっ!ちょっとエーリス、いきなり飛びついたら危ないじゃん」
「姉さんなら大丈夫だって」
「なにその自信」

水くみを手伝っているミズキお姉さんに抱きつくエーリスが何でか少し羨ましくて、きゅっと両手を握りしめて2人を眺める。
私はミズキお姉さんの迷惑にはなりたくないから、こうやっておとなしくしているんだ。
いつもそうしていたから、村の大人達にも「クラピカはおとなしくて良い子だなあ」って褒められるようになった。
だから、ミズキお姉さんにも迷惑をかけちゃいけない。

なのに。

「クラピカ、そんなとこで何してるの?こっちおいで」

エーリスが首に腕を巻き付けてぶらさがってるのもまったく気にせずに、ミズキお姉さんは私に向かっておいでと両手を広げる。
抱き着いても怒られない?
仕事をしている人のじゃまをしてもいいの?

迷っている私の心が読めたのか、ミズキお姉さんはにっこりと、あの優しい笑顔でまた私の名前を呼んだ。

「クラピカ、おーいで」
「…っうん!」

走って、ミズキお姉さんに抱きつくと背中にぎゅうっと腕を回す。
ゔ、ってお姉さんが苦しそうな声をあげたのに気が付いて、怒られるんじゃないかと彼女を見上げても、ミズキお姉さんはやっぱり「だいじょーぶだいじょーぶ」と優しそうに笑っていた。
ミズキお姉さんが私を撫でてくれる手が、あったかくて、優しくて、大好き。

「こらエーリス、クラピカ。ミズキちゃんの邪魔をするんじゃないよ」
「ああいえ、大丈夫ですよ。2人ともかわいいんでこのまま水くみしちゃいます」

私とエーリスが抱きついたままなのに、お姉さんは普通に井戸から水をくんで、私なら重くて1つしか持てないバケツを4つ持つと、そのままさっき私たちを叱ったおばさんの元へ歩き出した。

「あれまあ、ミズキちゃんは力持ちなんだねえ」
「力にだけは自信があります」
「頼りになるよ」

快活に笑うおばさんにミズキお姉さんは軽く笑って、バケツを言われた場所に置くと次のお手伝いの場所へと向かいだした。
そのころには私とエーリスはお姉さんから降りていて、代わりに私が右手を、エーリスは左手を握っている。

弟が2人出来た気分だと、お姉さんは笑った。
私も、ミズキお姉さんが本当の姉だったらいいのにと思った。

そして、ずっとここにいてくれたらいいのに、って。

「俺ねー、ミズキ姉さんのこと大好きー」
「わ、私も、ミズキお姉さんのことが大好きだ!」
「まじで?嬉しいこと言ってくれるねー」

いったん私たちから手を離してお姉さんは目線をあわせるためにしゃがみこみ、くしゃくしゃと私たちの頭を撫でた。

「あたしも2人のこと、大好きだよ」

もちろんクルタの人全員もね。と付け足して、ミズキお姉さんはふわりと微笑んだ。


悲劇が起きたのは、その翌日だった。





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