ハゲクロロによってぺいっと放り出された街で、先輩と2人きり。
理由も言わずに「買い物でもしてこい」と万札渡してくるクロロはある意味かっこいいっちゃかっこいいけど、この展開はあの、あれだ、ちょっと困…いや嬉しすぎてなんだけど。

「さてと、どこ行くかな」
「そ、そうですね」

だってこれデートじゃん…!
先輩と2人で街ぶらつけるとか、ちょっとこんなミラクルあっていいのかな、明日辺り雪降るんじゃないだろうか、今夏だけど。
もしかしてこれを機にめちゃくちゃ仲良くなれちゃったりとかしちゃうかもしれない!楽しみ!

1人でテンション上がっていたら、ふと、タカト先輩が何かをじっと見つめていることに気付いた。

――…親子。
視線の先にいるのは、穏やかそうなお父さんと優しそうなお母さんと一緒に、少し文句を言いながらも買い物を楽しんでいる、あたし達と同じくらいの兄弟だった。
そういえば忘れがちだけどタカト先輩には弟がいるんだったっけ、と思い出す。あたしによく突っかかってくる、先輩と違って面倒くさい弟が。

「先輩、帰りたいですか?元の世界に」
「…そりゃ、まあな」

自分1人テンションが上がっていたことを、恥じた。

先輩にとってこの世界は未知の世界なんだ。
ハンターを読んでいて知ってるあたしとは違う、先輩はこの世界について、何も知らない。
家族が、元の世界が恋しくならないはずがない、よね。

「ミズキは、帰りたくねえの?」
「あたし、ですか」
「うん」

どう、なんだろう。今まで考えていなかった。
帰りたいとか、元の世界が恋しいとか。そりゃ、家族も友達もいて、大切だし大好きだけど。
だって、元の世界以上に、あたしにとってこの世界には好きな人ばかりの幸せな世界で、望む力だって手に入れることが出来て、大好きな先輩もいて、旅団のみんなとも仲良くなれて、だから。
…自分のことしか、考えてなかったんだな…あたし。

先輩の問いには答えずに、にこりと微笑んだ。

「探しましょう、帰る方法」
「、え?」
「きっと見つかりますから。勝手にこの世界に連れてきておいて帰れませんなんて、そんなことあるわけないですもん」

あなたが、タカト先輩が、望むのなら。

「帰れる、のかな」
「もちろんです!」

何に代えてもあたしが、先輩を元の世界に戻すから。
だから先輩、そんな悲しい顔を、しないで。

「…ミズキがそう言うと、ほんとに帰れそうな気がしてきたわ」

そうやって、いつまでも笑っててください。

「じゃ、約束」
「ああ、約束な」
「「ゆーびきーりげーんまん、うそついたら針千本のーますっ!」」

ゆびきったっ、と手を離して。にっこり笑って。

それじゃ適当に街ぶらついてから喫茶店でのんびりしましょー、と、先輩の前を歩き出した。
今の、あたしの顔を見られたくなかったから。



――大好きな人が泣きそうなのに、どうして自分だけがこの世界にいることは幸せだなんて言えようか。





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