俺はただその瞬間を、呆然と眺めていた。

シャルに呼ばれて、こっちに小走りで駆け寄ってくるミズキ。
なんか兄妹みたいだななんて、思ったのもつかの間で。
ミズキに軽く触れるくらいのキスをしたシャルは満足そうに笑って、その場を去っていった。

固まったままの、ミズキと、俺らを残して。

「…、まじか」

ぼそりと呟いたのは、クロロ。それに続いてフィンクスも「嘘だろ」と呟く。
俺は口を開くことも体を動かすことも出来なくて、ただ、固まったままのミズキを見つめることしか出来なかった。

何が起きたのか理解しきれてないのか、ぽかんと立ち続けるミズキ。
隣で立ち上がったクロロがミズキに声をかけようとしたのと、フェイがミズキに向かって薪を投げつけたのは、ほぼ同時だった。
薪が、ミズキの頭にスコーンと、綺麗な音をあげてぶつかった。

「いって、」
「お、おい、ミズキ…大丈夫か」
「なにが?つーかフェイタンいきなり薪投げないでくださいよ!痛いじゃないですか!」

あ、れ、なんともない?

頭をさすりながら、クロロには相変わらずの冷たい態度を、そしてフェイに向かって薪を片手にぷりぷり怒っている、ミズキ。
さっきの出来事が嘘のような光景に、いの一番にツッコんだのは、フィンクスだった。

「ミズキ、お前、シャルにキスされてなんも反応なしかよ」
「え?あー、あれやっぱりちゅーなんだ」

なんつー、あっさりとした。

「いや最初はびびったけど、どうせシャルのことだしいたずら気分でしょ?まあ後で殴るけど」

最後の一言だけ声がワントーン低かったけど、ミズキはさして気にはしていないらしい。
それは相手が、シャルだからなのか。

「なあ、ミズキ」
「いっ、あ、せんぱい」
「?もしキスしてきたのが、あの変態かクロロだったらどうした?」
「俺をあいつと並べるなよ」

俺が話しかけた瞬間に顔色が真っ青になったミズキを不思議に思いながらも、頭に浮かんだ疑問をぶつけてみる。
ミズキは真っ青な顔色のまま、もごもごと何かをどもった後、引きつった笑顔で口を開いた。

「ヒソカは蹴って…クロロは踏みます、多分」
「俺の方が酷くないか」
「気のせいですよははは」

相変わらず真っ青な顔で、じゃああたし薪割り続けますんでーとフェイのいる場所に戻っていくミズキの背中を眺めながら、ぼんやりと思う。

俺が、ミズキを面白いなーって気に入ってるのと同じくらいに、もしかしたらそれ以上に、ここにはミズキのことを気に入ってる奴がいるのかもしれない。
ミズキと俺は、この世界に2人きりしかいない異世界の人間で、だからお互いが唯一なんだって、勝手に…なんとなく思ってたけど。
もしかしたら、ミズキには俺よりも、ただ1人の存在が――…?





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