「えっ、フェイタン…さん、が?」

来てるはずなんだけどね、どこ行ったんだか、とマチが呟く。

広間で飲み会をしていたみんなに誰か来たのかと聞いて返ってきた答えが、それだった。
…フェイタン、来たんだ。
道理でハゲクロロがこっちを見てにやにやしてるわけだ。フェイタンの団長狂っぷりをフィンクスやシャルに聞いたあたしが、フェイタンの前でクロロのことをバカに出来ないだろうって顔。うっぜえ。

はー…でも、フェイタンが来たのか。
ってことは階段降りる前に感じた気配が、もしかしたらフェイタンだったのかもしれないな。多分違うだろうけど。

「飲むか?ミズキ」
「あ、先輩…ありがとございます」

渡されたのは缶のリンゴジュース。
ありがたくいただいて、喉を潤すことにする。

そうこうしてるうちにみんなはフェイタンがどこに行ったのかを話していて、でもそこまで気にしてる風ではなかった。
酒の肴程度に、って感じなんだろう。
お互いを心配するような関係じゃないだろうし。ってかまず心配がいるほど弱くもないんだろうし。

「お前が、ミズキか?」
「え?」

不意に、背後から声をかけられて振り返ると、そこにはフェイタンがいた。
ほんの少し、かすかに、あたしがさっき吸った煙草の臭いがする。…フェイタンも喫煙者なのかな?あれ、でもフィンクスが「フェイは煙草嫌いだぜ」って話してたような…。

てか、何でフェイタンあたしの名前知ってんの?

「そう、ですけど…」
「…こち来るね」
「ちょっえ、待っ…うおわっ」

あたしの腕を掴んだフェイタンに無理矢理立ち上がらされて、そのまま広間の外へと連れて行かれる。
先輩含めその場にいた全員に助けてと視線で訴えてみた、けど。

(またこのパターンか…)
(ヒソカの時とは立場逆だけどね…)

そんな、みんなの心の声が聞こえた気がした。
…気のせいだと、思いたい。


++++


「先に謝ておくよ」
「な、何をですか…」
「お前の部屋、入らせてもらたね」

…え、?
ちょっま、え、待ってくださいよフェイタンさん、あたしの部屋?え?何で!?

「煙草臭かた」
「おおおすみません…!」

フェイタンは言いながら、心っ底嫌そうに眉間の皺を深める。
やっぱりあたしの記憶は間違って無くて、フェイタンは煙草嫌いらしい。
…ああ、だからフェイタンからかすかにあたしと同じ煙草の臭いがしたのか。あたしの部屋に入ったせいですね。あの部屋窓無いから。…壁壊れてるから風は一応入ってくるけど。

「で、ノート、」
「ちょまっ、なあああ!?」
「うるさいよ」
「いやまっ、だってノート、もしかして!み、見っ…」
「見させてもらたね」

崩れ落ちた。比喩じゃなくてリアルに。もうこのまま瓦礫になってしまいたい。
床に膝と腕をついて項垂れるあたしを見下ろすフェイタンからは、不思議そうな気配。
いやでも、もう、顔上げらんねえ…。

「?…面白かた」
「、え」
「続きはいつ書く?ワタシあまりここにいない、早く全部読みたいよ」

カタコトで、でもまくし立てるように言うフェイタンの顔を見上げてみれば、少し興奮しているように紅潮しているのがちょっとだけ見て取れた。
その表情に、どきんと心臓がはねる。

ど、どうしよう、フェイタン、かわいい。

撫でたくなる衝動を一生懸命抑えて、うずくまったままの体勢からちゃんと座り直した。なぜか正座だ。
つられたのか、フェイタンもなぜかあたしの前に腰を下ろす。
なんだこの状況シュールだな。

「ミズキ、お前の書く話、気に入たね」
「あ、ありがとうございます…」
「続きは?まだ書かないのか」

続きは…まあ一応話の流れは考えてあるし、時間さえあればいくらでも書ける。
でも、なんだかんだ言ってあたしはここに居候させて貰ってる身で、ハゲクロロが帰ってきた今、あたしにはあのハゲに課せられた雑用が山のようにあるわけで。
あんまり書く時間がないのだと、きれいめな言葉でフェイタンに伝えた。

「ならその雑用、代わりにワタシがやてやるよ」
「い!?…や、いやいや、そんなわけには」
「やると言たらやる。気に入てしまたんだから仕方ないね」
「、でも…」

フェイタン、なんかキャラ違くない?
こんな献身的、あれこれ献身的っていうのかな、ともかく自己犠牲的なキャラだったっけ?
あたしの勝手なイメージとしては、団長からの雑用を最優先にしそうな感じ、なんだけど…。

「…そんなに言うなら、2人でやればいいね」
「雑用を、ですか」
「ちょうどお前のことも知りたい思てたし、ちょうどいいよ」

目だけで笑ったフェイタンに、どきーん。心臓がまた跳ねた。





×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -