文字を書くのにだいぶ慣れてきた頃。
あたしは自分の部屋でひっそりと誰にもばれないように、ノートにペンを走らせていた。
文字を書く練習ついでに、毎日少しずつ書き進めている物。

ぶっちゃけると、拷問シーン盛りだくさんの小説です、はい。

前の世界にいる時からちょくちょく書いてて、そういう賞も少しだけもらったことがある。本にしてもらったこともある。
なんでもあたしの書く拷問モノは、描写がリアルなようで。特に拷問されるキャラの心理描写やら拷問中の情景描写やら、が。
いや、資料館とかは見に行ったことあるし資料のための本もたくさん持ってたけど、拷問はしたことも見たこともないよ?当然だけど。
でもなんかリアルなんだ。多分前世が執行人だったんじゃねくらいには思っている。冗談で。

「…なんか広間が騒がしいな、誰か来たのかな」

真ん中辺りまで吸った煙草の火を消して、ノートを本棚にしまい、部屋を出る。
広間へと向かう途中誰かの気配を感じた気がしたけど、気のせいだと、あたしは階段を下っていった。


++++


「……」

そういえば、団長が異世界からの人間を2人拾ったと言っていたか。
ならばあれがそうなのだろうと、今まで見たことのないオーラを垂れ流している女が去っていくのを見やってから、ちらと、その女が出てきた部屋に目をやった。

異世界からの、人間。

ほんのわずかに興味を惹かれる。
無意識にその壊れかけの扉に手をかけて、ワタシは部屋へと足を踏み入れていた。

「っ…、」

臭い。煙草のにおいが充満している。女、しかも子供だろうに煙草を吸うのか。
白地に青の水玉模様がついた灰皿の中には、溢れんばかりの吸い殻。消したばかりのモノもあることから、やはりあの女が吸ったのかと眉間にしわを寄せる。
煙草は嫌いだ。臭いが好かない。

こんな部屋に1分1秒でもいたくないと、身を翻した、そのときに。

「、あれは…」

視界の端に写った、薄ぼんやりとしたオーラの固まり。
それの正体は、本棚から1冊だけ落ちてページの開いている、ノートだった。
モノにオーラを込めることが出来る程の人間なのか、あの女は。

そのノートに書かれている内容が気になって、ワタシはノートをめくった。

書かれていたのは、小説。拷問物、のようだ。


爪を剥がされ指を折られ火であぶられ電気を流され、ありとあらゆる拷問を受けても口を割らない女と、無感情でそれらを行う女の、淡々とした、けれどページを捲る手が止まらなくなる不思議な魅力をもった、話だった。

あっという間に1冊読み終えてしまい、2冊目はどれだろうかと本棚に目を向ける。
と、そこで気付いたのだが、本棚にはたくさんの拷問に関する歴史書や小説、漫画までがしまわれていた。この話を書くための、資料なのだろうか。
2冊目を見つけ、読み終える。
1冊目の時は歪だった文字が、だんだんと読みやすい綺麗な字になっていっているのに気付いて、あの女は文字を書くことができなかったのだろうかと、ならば文字を書く練習代わりにでもこれを書き始めたのだろうかと、思案した。

3冊目の12ページめで、その小説は途切れていた。
後のページを捲ってみても何も書かれていない。ここまでしか、書いていないのか。
続きが読みたいと、そう考える。
それと同時に、これを書いた女のことを知りたいと思った。

「…ミズキ…か」

ノートや本と一緒にしまってあったドリルに書かれていた名前を、声に出して読んでみる。

ワタシの嫌いな煙草を吸う女で、子供で、こんなにも興味の惹く話を書く、ミズキ。
どんな人間なのだろうか、ワタシは女のいるはずの広間へと、足早に向かった。






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