ヒソカもといクソピエロを引っ張って連れてきたのは、あたしのお気に入りスポットになりつつある屋上だった。
投げ捨てる勢いでヒソカから手を離し、あたしはあたしで崩れ落ちるように地面に膝をつく。
疲れた訳じゃないんだ、いやでも心は疲れた。

「煙草吸っていいすか」
「おや、未成年の喫煙は禁止されてるんだよ」
「うっせーよ知ってるよ苛ついてんだよ今」

問答無用で煙草に火をつける。

もう…なに、この人何がしたいの。何が目的であんなこと言ったの。
ため息混じりに煙を吐き出した、その瞬間に。

「せっかく美味しそうなんだから、こんな不味そうなモノ吸っちゃダメ」

ヒソカに、煙草を奪い取られた。
…こいつこんなナリして嫌煙家なの?
一口しか吸ってないのに火を消された煙草をもったいないなあと眺めながらも、嫌がられてまで吸う気にはなれないから煙草とライターをポケットにしまう。
それでいいんだよと機嫌良さそうに笑うヒソカ。さっき一瞬すげえ怖い顔してた癖に。

「…で、何であんなこと言ったんすか」
「あんなこと?」
「あたしが先輩を…その、えー…あれだって」
「好きだってことかい?」

ちくしょうニヤニヤすんなよこの野郎!
怒りとか恥ずかしいとか通り越して泣きそうになりながら、あぐらをかいて、立ったままのヒソカを見上げる。彼は至極楽しそうに、笑みを深めた。

「もったいないなあと思ってね」
「…もったいない?」

――…曰く。
潜在能力で言えばヒソカよりもクロロよりも、誰よりも勝っているだろうあたしが、それよりも劣る先輩の後ろをおっかけてるのは愚かだと。
もっと強い奴と関われば、戦えば、もっともっと強くなれるだろうに、ここで何もせずのんびりしているだけなのはもったいないと。

つまり、そういうことだった。ヒソカが言いたいのは。

「それと先輩は別に、関係なくない」

だいたい先輩も、まあどれくらいかはわかんないけど、トリップ特典でかなり強くなってると思うんだけど。
少し不機嫌になりながらヒソカを見上げる。
あたしが誰を好きだとか、そういうのを何で今日会ったばっかのヒソカにどうこう言われなきゃいけないわけ。

「ボクと一緒にいれば、ミズキはもっと強く…美味しくなると思うんだ」
「で?」
「ここにいるのも面白いけど、ミズキはいろんなところを見て回った方がいいと思うよ」
「で?」
「行きたくないのかい?他の国や、街に」

そりゃ行きたいけど。
クジラ島とか、ヨークシンとか、パドキア共和国とかね。あと流星街も見てみたいし。

でもそれは別に今行く必要のある場所じゃない。

確かに強くなった方がさ、後々楽にことが進むかもしんないけどさ。
理由はよくわかんないけど、ヒソカはあたしと先輩を離れさせたいだけじゃん。意味わからん。

「別に、今はいい」
「タカトがいるから…かい?」
「それもあるけど、あたし旅団のこと好きだし。離れる理由ない」

ふぅん、ヒソカは何かを考えるようにのどを鳴らした。
「じゃあ、」にっこりと、唇を三日月のように歪めて。


「タカトを、殺しちゃおっかな」


予想外の言葉を、吐いた。





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