水を一杯


宴も酣、わたしは宴会場を抜けて、縁側で一息ついていた。
この世界の酒キツすぎ。未成年な上に甘いもんしか口にしたくないような子供舌なのに、あんなんどんどんつがれたら頭爆発するわ。

警備の兵を抜いたらほとんどの人が宴会場周辺に集まっているから、ここは静かだ。
ぐらぐらする頭に、これ一回吐いた方が楽かもなあなんて考える。
……嘔吐する三成か、アリだな。ムービー撮りたい。
いやでも中身が自分だと思うと微妙か…!?いやしかし……。

「三成様」
「っ、」

びくっ、と肩を揺らして声の聞こえた方へ顔を向ければ、ほんのり疲れた表情の左近が湯飲みを片手に立っていた。
「水どうぞ」とそれを渡され、ありがたく受け取る。

「今この辺り人いないから、三成って呼ばなくていいですよ」
「そうですか?んじゃお言葉に甘えて」

よっこらせ、と左近はわたしの、一人分のスペースを空けた隣に腰を下ろす。
「いやー涼しいっすねー」「俺今日も走り回ってたんで、すっげー疲れてんですよ」「もう足が棒ですわ」なんて、一人でどんどん言葉を紡いでいく左近に、何か言いたいことでもあるんだろうかと勘ぐってしまう。
大谷さんは割と、本心はどうあれわたしを受け入れてくれたけれど、左近はそうでもないみたいだったし。
まあそりゃそうさなー、って感じなんだけど。

「三成、…さんの情報は、何か見つかりましたか?」
「……いーや、もうすっからかんですわ。アンタが教えてくれたアンタの元の姿?ってのの人相書きもバラまいてみてんですけどねえ」
「あれバラまかれたのか……」

わたしの元の姿は、元の世界にいるだろうとわたしは勝手に思ってたんだけど、もしかしたらこっちに来てる可能性もある。ってことで、わたしは四苦八苦しながら自分の似顔絵を作り上げ、左近に渡していた。
もしわたしの身体がこっちの世界に来ているなら、きっと三成はその中にいるだろうから。
全部憶測だけど、あり得ないとは言い切れない。

「元の三成様に戻る様子もねえみたいですし、……はー…」
「……すみません」

わたしだって戻れるモンなら早く元の身体に戻りたい。
戦争なんかしたくないし、人を斬りたくもないし、だいたいまず三成のキャラを作るってのは予想以上に疲れるんだ。
まだ政宗辺りのが楽だった。家康とか。いや家康もめんどそうだな?

わたしの謝罪を聞いて、左近はもうひとつ溜息をつく。
よっこらせ、とまた呟きながら立ち上がって、「酔いが醒めたら戻った方がいっすよ」とやんわり笑った。

「アンタだって自分の身体がどうなってんのか不安でしょう、三成様は自分の身体痛めつけんのが趣味みたいな人だし」
「……ああ、まあ…そうですね」
「俺に謝るような事じゃねえっすよ。謝るなら、俺がすぐに見つけてみせますから、三成様に謝ってください」
「、……うん」

んじゃ、その身体傷付けたら許しませんからねー!と冗談めかした言葉を残して、左近は去っていった。

渡されたまますっかり忘れていた湯飲みを見下げ、それに口を付ける。
ひんやりとした水が喉を伝って、その感覚に、溜息が出た。

三成がもしこの世界のどっかにいるんなら、早いとこ見つかって欲しい。

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