おはなし


なんとか毛利軍と同盟を組むことも成功し、わたし達は大阪城へと戻ってきていた。
そこで思い出す、縁談の話である。

左近は暇さえあれば城を抜け出して、本物の三成を捜し回っている。
何をどうやって捜して、見つけるつもりなのか、わたしにはとんとわからないが、まあ主従の絆的な何かで見つけるんだろう。絆の力だ!かっこ遠い目かっことじ。

それはさておき、先程その縁談相手の姫さんが城に到着したらしい。
夜に顔合わせ的なものをして、宴会があって、うまくいくならそのまま結婚みたいな感じだと大谷さんに説明された。
うまくいかせちゃいけないのが、わたしの仕事だ。ただし相手に悪印象を持たせちゃいけないというハードゲーっぷり。難易度婆娑羅だよこれ。

「しっかし、結婚なー」

城内は宴のためにばたばたと慌ただしい。
戦の最中にこんなことする暇があるんだから、戦国時代ってのも存外平和だ。いや全然平和ではねーけど。

わたしは三成の自室で溜まった政務をこなしている最中である。
大谷さんにいろいろ説明されて、どうにかこうにかこなせてはいるけれどやっぱり難しい。
戦で勝ち取った領地に関すること、年貢のことやら、雨が降らないから畑がやばいことやら、そんなん城主に言ってどうすんだと思うようなことまである。神にでも祈れよ。
これを三成は今までちゃんとやってたんだろうから、素直にすげえとしか言えない。
とりあえず雨に関しては山頂ででかい火でも焚きなさいとしか、わたしには……。あと逆さてるてる坊主でも作ればいいんじゃないかな。


そうこうしている内に、あっという間に夜はやってくる。
三成の部屋へとやって来た大谷さんに、「基本はぬしに任すが、決して余計な事はしてくれるな」と釘を刺されながら宴会場的な場所に連れて行かれた。
どこからが余計な事になるのか詳しく教えてもらいたかったけれど、そんな時間は無かった。

「……はじめまして」

たどり着いた場所で、恭しく頭を下げ鈴のような声を鳴らした女の人が、どうやら件のお姫さんらしい。
なんというか、大人しくなった鶴ちゃんというか、影のない市ちゃんというか、そんな感じの人だった。一言で言うならめっちゃ可愛い。

「この度は私共のためにこのような宴を――…」

定型文とでも言えばいいのか、決まった言葉をすらすらと吐くお姫さんに、さすが身分の高い人は違うわあと感動にも似たなにかを覚えながら、必要なときに合間を縫って、大谷さんに教えられたとおりの受け答えをする。
形式張った顔合わせは数十分ほどで終わり、宴まで二人でごゆっくり〜と言い残され、なぜかわたしは姫さんと二人っきりにされた。
……え、なにこれお見合い?戦国時代ぜったいこんなんじゃないと思うんだけど。軽いな!?

「……三成様、どうかされましたか?」
「あ、ああ……いや、何でもない。大丈夫だ」
「ならばようございました。先程も申し上げましたが、私は十六夜と申します。この度は三成様にお会いすることが出来、誠に光栄に存じます」
「……、」

姫すげえ……。
ふんわりと微笑む表情、緩やかな仕草、どこをとってもまさに女の子ー!って感じだ。しかも良いとこのお姫さんなんだからこう言っちゃなんだけど確実に処女だし、ていうか多分この子十三、四歳くらいだろうし、箱入り娘だからこそだせる清純さといいますか、なんというかとにかくもうすげえ。
同じ女とは思えない。今わたし男だけど。

「わたしも、十六夜殿にお会いできて光栄だ。……だが、その年で見ず知らずの男に嫁ぐというのは、嫌ではないのか」
「そんなことはありません!お家の繁栄のため、というのも勿論ありますが……私は三成様のような方を、お慕いしております」

……、うん?今なんか、ちょっと言い含んだなこの子。
いやそれともこういう言い回しが普通なんだろうか。うーんわからん……。

「三成様は、私のような小娘はお嫌いですか……?」

あっだめだ可愛い。この子かわいい。ちょっとあざとい感じがあるのがまた可愛い。
きっと可愛い可愛いって蝶よ花よと育てられたんだろうな〜……はー困る。このまま結婚していいんじゃないかな。だめかな。ダメだよな、うん。知ってた。

「……嫌いという訳ではない。だが、十六夜殿……私は貴様の方に、迷いがあるように見える」
「えっ……?」

こんな可愛い子に向かって貴様とか言いたくないんだけど、三成のキャラだと貴殿もそなたもあなたも君も似合わなくてほんと、ほんと三成……っ。

ぶっちゃけさっきの台詞は適当だったのだけど、どうやら姫さんの表情を見るに当たらずとも遠からず、ってとこらしい。
姫さんは泣きそうな表情で俯いて、そんな、とか細い声を震わせた。

「いざよい……十六夜は十五夜より遅れてくる事から、月が躊躇いを見せたとして、いざよう、それが変化し、いざよいと読むそうだな。また、十六夜の別名は既望。貴様の望みは尽きたのか、それとも未だに遠くを眺めているのか?」
「……三成様は、博識でいらっしゃいますね」

もちろんあらかじめ名前を聞いてて調べましたとも。
しかし大事な娘に既望って別名がある十六夜とつけるとはこれいかに。いやわたし十六夜好きだけどね?

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