泣き虫


しかしまあそれ(縁談)よりも先にやるべき事がひとつ。

毛利軍と同盟を組むための戦があるのだ。
わたしが三成に成り代わってしまったことで少しだけ先延ばしにしてもらっていたのだが、あまりにも先延ばしにしてしまえば同盟が破棄になってしまう可能性もある。
まあ毛利さんに関して言えば、彼は既に大谷さんと裏での盟約は済ませているので、そこら辺は大丈夫だろうと思うのだけど。
まあ表での同盟も必要なことでしょう、というわけで。

わたしは大谷さんと左近に手伝ってもらいながら、馬の乗り方、刀の扱い方、戦い方などの諸々をこの数日間学び、とりあえずの形は出来たので、本日とうとう進軍することとなった。
ぶっちゃけ不安しか無い。

馬というかUMAに乗って、数日かけて辿り着いた安芸の国。
どうやら厳島の戦いステージそのものであるらしいことに気が付いてからは少し気が楽になった。
わたしが三成を使って何度あのステージをノーダメクリアしたことか……。
この世界が難易度設定どんくらいなのかは知らんけど、まあさすがに死ぬことは無いでしょう、三成死んだらダメだろうし。
そんなこんなでわたしは割と、意気揚々と順調に陣を取っていっていた。

「三成よ、あまり先走るでない。ぬしを一人にするのは些か不安ゆえ」

厳島神社?内?に入り、半時計回りに二つめの陣を取り終えた頃。
後ろから追い掛けてきていた大谷さんが困ってんだか呆れてんだかって表情でわたしを見下ろしながら、弓矢を射ろうとした近くの敵を珠で吹っ飛ばした。

「思っていたよりも手応えが無いからな、問題ない。刑部、貴様は好きにしていろ」
「そうは言ってもなァ、」
「わたしは一人でも大丈夫だ」

実際、ほんとに大丈夫そうだった。
まだ雑魚兵ばかりなんだからそうそうピンチに陥ることも無いだろうけど、さほどダメージも受けていないし、この調子なら問題ないだろう。

大谷さんと話しながら北の陣へ向かい、そこも余裕で落として、毛利の元へ向かう。
事件はわたしが階段を上ろうとした瞬間に起きた。

「いってっ!?」
「…………だからわれは不安だと言ったのよ」

一段目を見事に踏み外したわたしはそのまま華麗にずっこけ、おでこと腕とお腹とふとももと膝と足首に多大なダメージを受けた。

「い、痛い……めっちゃ痛い……無理、あかん、これはあかん、ほんま痛いありえん」
「三成」
「……ハッ」

目尻にうっすら涙を浮かべながら、確実に痣になるだろう箇所を撫でさする。
そんなわたしを窘めるように大谷さんが名前を呼び、そこではっと我に返った。
階段に立つ盾兵と弓兵が、とても微妙な表情でわたしを見下ろしている。

おでこと膝が本当に痛くて仕方ないのだけど、泣きそうになるのをぐっと堪え、わたしは立ち上がる。
そして痛みを恨みやらなんやらに変えながら、ギンッと頭上の兵達を睨み付けた。

「何を見ている」

地の底から這い出てくるかのような声に、目前にきた兵達が震え、小さな叫び声を上げる。

「死にたくなければ今見たものはすべて忘れろ。さもなくば……」
「ヒィッ、忘れます忘れます忘れました!!」
「……ならばいい。退け、わたしの道を遮るなッ!」
「はいいいいいっ!!」

蜘蛛の子を散らすように去っていった雑魚兵を見送り、大谷さんにどや?と小さな笑みを向けてみせる。
すげえでかい溜息つかれた。

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