困った


ひょんなことからわたしが三成になってしまい早五日。

大谷さんも騒ぎを広めるのは良しとしない人だったから、三成が三成でない事を知るのはわたしと大谷さん、そして島左近の三人だけである。
一応大谷さんにも隠してた頃に、左近とも何度か話をしていた。ぶっちゃけモブ時代だった左近しか知らないので、なんかもう「ちょりーっす」とか言い出しそうな見た目の左近に会った時には心底驚いたものだ。
「だ、誰だ貴様は!」って思わず問いかけたら「ちょ、三成様冗談キツいっすよ!俺です俺、左腕に最も近しい男、島左近ですよ!」と泣きそうなんだか笑うの我慢してんだかよくわからない表情で答えられたのも、記憶に新しい。

そんな左近はわたしが三成でない事を大谷さんから知らされてからは、本当の三成を捜すと息巻いている。
今、わたしが入っている身体は三成の物だから、肉体的にも、外聞的な意味でも、傷付ける事は絶対に許さないとシリアス顔で言われた時にはわたしが泣きそうになった。左近こええ。
しかし、本当の三成を捜すのはいいにしても、わたしの身体は元の世界にあると思うわけで。つまりこの世界でいくら捜そうと見つからないんじゃないかって話ですよ。
まあめんどいんでそんなん言いませんでしたけど。

「少し良いか」
「……ああ、入れ」

三成の必要最低限の物以外何もない自室でぼけーっとしていたところに、大谷さんが入ってくる。
三成が三成じゃないと理解してから、大谷さんはわたしを三成とあまり呼ばなくなった。人前だとか、どうしても必要な時は呼ぶけれど。

大谷さん以外の人がいないのを確認し、ぴったりと部屋の扉が閉められてから、わたしは口を開く。

「どうしたんですか?次の戦の話は昨日聞きましたけど」
「うむ……それはよいのだが、」
「……?」

大谷さんは歯切れ悪く、言おうか言うまいか散々焦らして、結局諦めたように続きを話し出した。

「実はな、三成に縁談の話が来ておるのよ」
「ファッ!?」

すごい声が出た。三成の声帯こんな声も出せたんだな。

って、ていうか、縁談!?三成が結婚ってことですか!へー!なんかちょっとテンション上がるな何だこの気持ち。
ウン十年?十ウン年?女作らずにこいつこのまま独り身で死んでったらどうしようって思ってた弟がやっと婚約者つれてきたような、そんな感覚だ。うへえ。

「え、え、どこのお姫様ですか!わたし、気になります!」
「何故にぬしがそこまで食いつくのかはわからぬが……まあ、なかなかに良き所の姫君よ。近頃の戦況を見、西軍優位と思って話を持ちかけたのであろ」
「へええ〜……美人ですかね?それとも可愛い系かなあ。三成には大人しいけど言うときにはハッキリ物事を言う、桔梗の花のような女の子が似合うと思うんですよね!っは〜…三成が結婚か〜……」
「……ぬしはわかっておるのか?」
「うん?」

えへへうへへと三成が結婚するという未来ににやけていたら、大谷さんが深い溜息をついて、呆れた眼差しでわたしを見上げてきた。

「その姫君と会うのは、ぬしなのだぞ」
「……おぅふ」

せ、せやな!

そういえば今わたし三成なんだった。なに勝手に三成の姉ぶってんだ。本物の三成に会ったことすら無いくせに。
いや、しかしそうともなるとこの縁談、アカンやつなんじゃないでしょうか。

「てか三成って、結婚の意思なんかあるんですか」
「われは聞いた事もないな」
「まずこの人女に興味あるんですか?女抱いたことあるんですか?ここ五日間、夜伽だとかそういうの特に無かったですけど」
「……われの知る限りでは、三成が女子を近付けた事すら無い」
「オーマイゴッド!」

頭を抱えて踞る。
そんな三成がこの縁談を良しとするとは到底思えない。秀吉様の御言葉でなければ絶対に、結婚なんかしようとしないだろう。
特に今なんか、そう遠くない先に家康と対峙するのだという大事な時期だ。家康しか見えてないようなあの男が、ぽっと出の女の子と結婚どころか、恋仲になろうとする気すらする気がしない。……なんか日本語怪しいな。

えええどうするんすかそれ〜、と悩みまくるわたしを大谷さんは心底微妙な、いわゆるモニョッて顔で見つめている。
まあそりゃこんな三成見たくないわな。わたしも何度も言うけどこんな三成いやだわ。

「でも良いとこのお姫さんなら無碍にしたらやばいんじゃないんですか」
「そうよなァ……。われも三成の知らぬ内に嫁が出来るのはどうかと思うゆえ、出来れば悪印象を持たせず、話を長引かせることが出来れば良いのだが」
「うひー、責任重大〜……」

口をへの字に曲げて、溜息をひとつ。
この時代の作法なんか知ったこっちゃないし、三成ぶった上で相手に悪印象を与えないとかとんだ無理ゲーだし、いやはやほんと何でこんな目に遭わなきゃならんのだ。
もしいつか本物の三成と出会ったら三成はわたしを殺さんばかりの勢いで向かってくると思うけど、ぶっちゃけわたしもそろそろ三成一発くらいぶっ飛ばしても許されるんじゃないかな?って気持ちである。
そもそも何で三成に成り代わってしまったのだ……解せぬ……。

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