それから。


「蜜奈、貴様宛に文だ」
「はん?」

ぺいっと投げて渡された文には、石田三成殿へ、みたいなことが書かれていた。
いやあんた宛じゃないですかと訝しげぇに三成を見上げれば、ため息を吐かれる。こいつまじ。

「見れば分かるだろう」
「はあ……」

二つある文のうち、まずは一枚目をぺらりと開く。
そこにはもう随分と前には読めるようになっていたあの蚯蚓のような文字で、鍋鍋鍋、と鍋のことばかりが書かれていた。

この前三成くんに教えてもらったみぞれ鍋を作ってみたよ!すっごく暖まっておいしかった!今度そっちに行くから、また一緒に鍋を食べようね!食材探しにはもう一緒に行けないけど、その代わりに僕がたあっくさん新鮮な食材を持っていくから!!
要約するとこんな感じである。
ああ、と声が出た。なるほど確かに、わたし宛の手紙である。

もう一通は意外にも、かのお姫様、十六夜殿からだった。
どうやら結婚するらしく、その報告と、三成様にも是非お会いしていただきたい、みたいな内容で。
文からも読み取れるくらい幸せそうな十六夜さんに、そっか、良かった。ぜひ旦那さんにも会ってみたいなあと笑みがこぼれた。

「……で、どうするつもりだ?」
「え?」

…………あっ(察し)。

「うわあどうしましょう。ちょっと三成、金吾と十六夜さんが来たときだけ入れ替わろう。多分わたしが寝てて三成が頭打ったらいける!気がする!」
「そう簡単に入れ替わってたまるか。私はもう貴様の身体に入りたくはない」
「そんな人の身体眺めて顔顰めんなよ……」

わたしだって出来るもんなら三成の身体にはもう入りたくな……いやしかし三成とまた入れ替わって、嘔吐する三成だとか酒に酔ってほっぺを赤くさせる三成だとかは見たいな?あと大谷さんと左近からかいたい。
後ですっげ怒られそうだけど。

「何かくだらない事を考えているだろう」
「ノーモア思考泥棒!」

呆れた溜息つかれた。

「でもまあ、さっきのは冗談として。別に今の三成なら金吾や十六夜さんとも話せるんじゃないです?そこら辺の人との関係性やした会話とか、全部教えたし」
「私はあれを見ると無性に腹が立つ」
「金吾涙拭けよ……」

金吾相手ならいっそネタばらしすんのもありだなあ、いやそれなら十六夜さんのがアリか?女友達として平和にお話をさせていただきたい。
でもな〜難しいよな〜…とうんうん頭を揺らす。IQいくつかわからない思考回路をフル回転させすぎてショート寸前だ。今すぐ大谷さんに会いたい。

「とりあえず文の返事はわたしが書いときますわ。どうせ三成と筆跡似たようなもんだし。後のことは後で考えよう」
「貴様の無計画さには稀に関心すら覚える」
「三成って表情だけじゃなくて口も達者になったよねえ……」

数ヶ月ぶり四度目の感想である。しかもプラスアルファ口達者までついた。

さてと文を懐にしまい、部屋を後にしようとする。
が、畳の上でなぜか滑ったわたしはそのままするーんと背後にひっくり返り、後頭部にどえらい衝撃をうけて気を失った。
ドジは治ったと思ったのに、そうもいかないのがドジである。



――…



起きたら、目の前に大谷さんのドアップが映った。
叫ばなかった自分を褒めて欲しい。

大谷さん何してんのって思ったと同時に、視界に銀色の何かが映った。
さらりと揺れるそれを寄り目になりながら視認し、軽く手で触れてみる。髪だ。ひっぱったら痛かった。
銀髪を、引っ張ったら、わたしの頭が痛い。
…………うん?

「……ッハ!!???あ、ゆ、夢か!?」

勢いよく顔をあげる。顔っていうか半身。上半身。ほんとうに勢いよく起きすぎたせいで頭がぐわんと揺れて、わたしは布団の上にリターンした。ウッ頭痛い。

「目を覚ましたか、蜜奈よ」

そして微妙に夢じゃなかった。ここは夢オチのシーンだろ。起きたら自分の部屋にいて、あっなーんだ夢かー!ってなるとこだろ。
なに普通に大谷さん目の前にいんの。寝起きに大谷さんの顔見るのなかなか心臓にわりーんだよちくしょう!大好き!

「ああ、まあ、ハイ」
「ぬしはまことに蜜奈よな?」
「当然じゃないですか。また入れ替わってたまるかってんだ」
「さよか、さよか。ならば良い。ぬしと三成が頭を打ったと聞いて心配しておったのよ。左近など大慌てで五月蠅くてたまらなんだ」
「……エッ、三成も頭打ったんですか」

ぬしがぶつけたのであろ、ヒヒッ。なんて言葉が振ってきて、やだあどうしよ〜うふふ〜……死のう。そんな心境に陥った。死のう。

「それ三成めっちゃ怒ってるんじゃ……」
「蜜奈貴様ァァアアア」
「ほらなんかすっげえ声聞こえてきたあああ!」

頭痛?んなもん知らんな!精神で勢いよく布団から抜け出たと同時に、布団に包丁が突き刺さった。
こ、こ、こえーよ!日本刀よりなんか現実的でこええよ!!

「こんな現実なら夢オチの方が良かったー!」
「意味のわからない事をほざくなァ!斬滅されろ!」

努々、夢は夢ならず。

結局わたしは、どうやら本当に現実らしいこの世界で、ずっと生きていくことになりそうだ。
勘弁してくれよと思わないでもないが、まあ、三成に全力で追い掛けられながらもけらけら笑ってるわたしの顔を見れば、本心なんて誰にでもわかってしまうことだろう。

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