おわかれ


東西軍トップ陣による話し合いは、それから一ヶ月も続いた。
やっぱり互いに譲れないものもある。仕方のないことだと思う。
再び戦がはじまるのか、それとも終わるのか、あるいは一時停止のままなのか。膠着状態というかなんというか、そろそろ周囲が焦れてきた頃、結論は出た。


「……そう、ですか」

ありがたいというかマジかというか、わたしに結論を伝えてくれたのは、家康本人だった。
城下町で買い物をした帰りに忠勝タクシーで現れた家康に「茶をしないか」と誘われ、民宿のような喫茶店のような店の個室になかば強引に拉致られ、すべてを伝えられた。

この一ヶ月の間に、元親の誤解はとけたらしい。その話はついでのように話されたので詳しくはわからないけれど、家康と元親との確執はなくなったのだときいて、少し安心した。
三成は今までの憤怒っぷりが嘘のように、意外にも大人しく家康と数度の対話を繰り返したらしい。関ヶ原以降、三成の変化が著しすぎていっそ怖い。何があったんだろう。

そして、日ノ本を別つ戦は、事実上、東軍の勝利ということで決着がつくそうだった。

三成、大谷さん、左近他数名の石田軍兵士は、ある場所で幽閉に近い処遇を受けると聞かされた。
それでも処刑されるよりはマシだ。私はそう思ったけど、それを三成が受け入れたのは意外だった。

家康は伊達、元親と共に新たに幕府を設立するらしい。
そこら辺の話は難しすぎたのであまり覚えていない。歴史通りに進行するのだろうという事がわかれば、それでいい。

毛利は安芸の不可侵条約みたいなものを取り付け、それで満足したみたいだった。
幸村は最後までごねたそうだが、伊達や元親と共に徳川幕府へ多少の貢献はするらしい。それでも武田の領地から離れることは無さそうだけど。

他国もだいたいそんな感じで、見せしめとして行われるかと思った処刑も、しないと言っていた。
それが蜜奈殿の望みなのだろう?と微笑まれ、思わず失笑したものだ。まさか家康にまで伝わっているとは。

「本当にそれで、大丈夫なんですか」

ある程度のことを聞き終えたわたしの疑問は、それだった。
反論はきっと多いだろう。後々に幕府へ刃を向ける者も少なくないだろう。それをわかっていて、わたしが述べた夢物語を実現させたのか。

家康はそんなわたしの不安を朗らかに笑い飛ばして、わたしの頭を撫でた。

「まだわからない」
「オゥ……まじかこいつ」

ついつい素に戻って呟いてしまった。家康がまた笑う。

「だが、ワシは蜜奈殿の唄うような夢を、夢物語で終わらせないためにここにいて、生きているんだ。平和な日ノ本を実現させてみせるさ」
「っはー……イケメンですねえ」

(結婚しよ)とは心の中に留めておいた。
イケメンの意味がわからなかったのか家康がきょとんとしていたので、やっぱり家康さんは格好いいですねえと言い換えておく。褒めても何も出ないぞ?と返された。
……お茶代くらいは奢ってくれますよね?わたしもう手持ちねーぞ。

「蜜奈殿」
「はい?」

話も終えてさてお別れですよ、ってとこで家康に呼び止められる。
ちなみにお茶代は家康が出してくれた。ありがたい。

「あなたは本当に、これで良かったと思うか?」

その問いかけはらしくもなく、不安そうなものだった。
そりゃあ家康だってまだわたしと対して変わらない年齢なんだろうし、しかたないか。そんだけの年で日本をまるまる統べようってんだから、不安にならないはずがない。
というかもしかして三成のことを聞かれてんだろうか。それとも、わたしのことを聞かれてんだろうか。
残念ながら察しの良い人間ではないので、意図を汲むことはできない。


「さあ、わかりませんけど。良かった、ってのは、最期に思うもんでしょう」



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