伝える


わたしは今まで、たくさんの人を殺してきた。

戦に負けた者すべてが死ぬわけではないけれど、敗戦国としての義務、というものもある。この時代の習わし、というか。
処刑される者もいるし、奴隷のような存在となる人もいる。ずっと監禁される人もいれば、降伏して勝者に付き従う人もいる。
もちろん大将や名のある武将たちは、そんなことになる前に、戦の中で死んでいくこともある。

三成は、恐らく……家康に負ければ、処刑されるだろう、と思う。
毛利や元親、幸村の辺りはわたしにはわからない。誤解さえ解いてしまえば元親は家康側につくかもしれないし、幸村はやっぱり伊達と戦って、死ぬのかもしれない。
日本史には明るくないから、そこら辺はわたしにはわからない。

何人も何人も、名前も知らないような人たちを殺してきたわたしが言えた事じゃないかもしれないけど、わたしは三成を死なせたくはない。
三成として生きてきた期間、わたしはそれなりに彼の人柄に触れられたと思うし、三成を思い慕う人たちのことも知ってきた。
それはただゲームをしていただけのわたしじゃ、知り得ないことだ。
だからわたしは三成だけでなく、大谷さんや左近、石田軍のすべての人たちにそれなりの愛着をもっているし、見捨てたくはない。
彼らに、敗戦国だという汚名をかぶせたくはない。


そうは思っていても。
だけど。


――…


「わたしは、受けてもいい提案だと、思います」

さっきまでしんとしていた癖に、一瞬で場がざわついた。
何も知らない小娘が、ほざくな!みたいな。そんな罵詈雑言が聞こえてくる。いやあもっともな発言です。わたしもそう思う。

「確かにわたしは何も知りません。負けた国がどれだけの、その、汚名とか、そういうのを受けるのかなんて体験したことないからわからないし、だから、えっと」

びしびし向けられる敵意には、三成の中にいる間に慣れたはずなのに、じわじわ涙がにじんできた。本当にこの身体は泣き虫だ。

「落ち着いて話せ、蜜奈」

三成が呟く。静かな声だった。
はいと小さく頷いて、目元を擦る。三成に求められたのだから、わたしは問いかけに答えなきゃいけない。

「ただ家康さんの要求をのむだけでなく、此方側からも条件を提示すれば、そこまで悪い話でもないと思うんです。この場で言うことでもないと思いますが、わたしは、西軍が勝って三成がこの国を統治するより、家康さんが統治した方が良いと思う。だけどそれはあくまでわたしの考えです。だから、皆さんでどこまでなら妥協できるか、どこまで自分の意志を貫きたいか。何のために、ここにいるのか。それらを話し合って、家康とも、東軍の人ともたくさん話し合って、決めるべきだとわたしは考えます」

少し喉が渇いてきたけれど、軽く咳き込むだけにして、続ける。

「こんなの、所詮、わたしの理想だけど。……わたしはここにいる人に、誰一人として死んでもらいたくありません。毛利さんはなんだかんだ大谷さんと一緒に三成を支えてくれたし、元親さんはたくさん魚をくれたし、幸村さんは真っ直ぐで、見ていて気持ちが良い。金吾さんはまた三成と鍋をするんでしょう?わたしはそんなみんなに生き続けて欲しいし、みんなで、歴史よりも素敵な日本を作り上げてもらいたい」

しんとしていた。誰も口を開かなくて、呼吸音すらも聞こえなくて、ずずっとわたしが鼻をすすった音だけが妙に響く。ちょっと恥ずかしかった。

「蜜奈、」
「……すみません、わたしの分を越えた発言をしました」
「いい。私が貴様に問いかけ、貴様はそれに答えただけだ。謝罪の必要はない」

ふ、と。本当に小さく、三成が笑った。
ほんとに表情の種類増えたよなあと、わたしも軽く笑う。

その後、軍議は夜遅くまで続いた。
みんながみんな、意見を出し合う。自分の主張を伝えて、時折妥協して、話し合う。
わたしはそれを、じっと、眺めていた。

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